栄養療法のクリニックではグルテンフリーと同様に、カゼインフリーの食事療法が重要視されています。
また近年、スポーツ界でも、カゼイン・グルテンフリーの食事は、最高のパフォーマンスに繋がるということで、カゼイン・グルテンフリーの食事法を取り入れている一流のスポーツ選手も増えてきました。あのテニスのジョコビッチ選手がカゼイン・グルテンフリーの食事法を実践して、活躍したことで有名です。
「カゼイン」は牛乳に含まれるたんぱく質のことです。牛乳は体に良いと信じてきた人も多いかと思いますが、実は様々な問題を抱えています。
今回はカゼインフリーの食事を行うことの重要性と、その実践法、さらに「牛乳以外でカルシウムを摂る場合にはどんな食品がおすすめなのか」もお話ししていきます。
カゼインとは
牛乳や母乳などの乳汁中に含まれる、たんぱく質のことです。乳汁中のたんぱく質は「カゼイン」と「乳清たんぱく質(ホエイ※)」に分けられます。※ホエイはヨーグルトなどにみられる、透明の上澄みの成分です。ヨーグルトやチーズ作りでは、牛乳に酸を加えると、カゼインと酸が反応し、凝固沈殿しますが、ホエイは酸と反応しないため、上澄みとして残ります。
カゼインと乳清たんぱく質の含有比率は、母乳が4:6、牛乳が8:2で、牛乳のカゼイン含有量の多さが圧倒的に目立ちます。
次に、カゼインが多く含まれる牛乳について、説明していきます。
牛乳について
牛乳(※)の成分は、水分・たんぱく質・脂質・炭水化物・ビタミン・ミネラルです。牛乳の白い色はカゼインとカルシウムが結合した色です。牛乳の風味には、乳糖・クエン酸およびその他の「酸の味」が関与しています。乳脂肪分の黄色は、主としてビタミンA(レチノール)によるものです。
※「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」(食品衛生法)より
①牛乳:生乳100%で乳脂肪分3.0%以上、無脂乳固形分8.0%以上のもの。成分無調整であり、添加はなし。
②成分調整牛乳:生乳100%、成分調整したもの。無脂乳固形分8.0%以上。
③低脂肪牛乳:生乳100%、水分等添加して成分調整したもの。乳脂肪分0.5%以上1.5%以下、無脂乳固形分8.0%以上。
④無脂肪牛乳:生乳100%、成分調整したもの。乳脂肪分0.5%未満、無脂乳固形分8.0%以上。
⑤乳飲料:牛乳に、カルシウムやビタミンDなどを強化したものや、コーヒー牛乳や果汁を加えたものなど。
ここでは、上記「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」にある①の普通牛乳の栄養面を細かくみてみましょう。
普通の牛乳の主な脂質は飽和脂肪酸である「パルミチン酸」と不飽和脂肪酸の「オレイン酸」です。炭水化物はほとんどが「ラクトース(乳糖)」となります。主なミネラルはカルシウム、カリウム、ナトリウム、リンです。ビタミンに関しては、ビタミンAとパントテン酸を多く含みます。
たんぱく質の約80%がカゼイン、約12.5%がラクトアルブミン、約3%がラクトグロブリン、その他(プロテオース、ペプトン)から構成されています。ラクトアルブミンとラクトグロブリンは、先ほど冒頭で述べたホエイの構成たんぱく質になります。
牛乳は9種類の必須アミノ酸をすべて含んでいます。必須アミノ酸(※)とは、人の体を合成するアミノ酸20種類のうち、体内で合成することができないアミノ酸のことを指し、食品から摂取することが必要となります。
※必須アミノ酸:トリプトファン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、ヒスチジン(ヒスチジンは昔は、乳幼児期のみ必須アミノ酸とされていましたが、現在は成人も必須アミノ酸となっています)
また、牛乳の特徴としては、カルシウムにアミノ酸バランスの良いたんぱく質や乳糖が結びついていることで、他の食品よりもカルシウムが非常に吸収されやすいことです。牛乳は、一見すると、豊富なたんぱく質やカルシウムが含まれており、健康的にみえますが、実は体にとって悪いという事実があります。
牛乳の害
カゼインが引き起こす、腸の炎症と中毒性
牛乳に含まれるカゼインは、分解されにくいアミノ酸配列をしており、未消化のまま腸に入ると、腸の粘膜に傷をつけ、炎症を起こします。この腸の炎症が、繰り返し起こると、次第に腸の粘膜の目が粗くなり、リーキーガット症候群(腸管壁浸漏症候群)になってしまいます。リーキーガット症候群とは、腸管を守っているバリアが破壊されることで、本来なら取り込まれることのない異物が体内に侵入し、炎症・アレルギー反応を引き起こす状態のことです。
また、分解されたカゼインの一部(ペプチド)は、アミノ酸配列がモルヒネに似ています。これが、脳では麻薬のように認識されてしまい、中毒性が高くなります。
カゼインが引き起こす、腸の炎症と中毒性は、グルテンにも同様なことが生じるため、グルテンフリーと一緒にカゼインフリーを行うとより効果的です。グルテンフリーの食事療法についてはこちらをご覧ください。(グルテンフリーの食事療法)
食物アレルギー
たんぱく質のカゼインやラクトグロブリンが主なアレルゲン(アレルギー症状を引き起こす原因物質)となります。先ほど述べたように、牛乳には多くのカゼインが含まれますから、アレルギーの問題も気を付けないといけません。
なぜならば、国の定める、特定原材料7品目に卵・乳・小麦・落花生・えび・かに・そばがあります。特定原材料とは、食物アレルギーを起こすもののうち、症例数がおおく、症状が重篤になり命にかかわる為、アレルギー表示を義務付けられているものです。
体は食品に含まれるアレルゲンを異物と認識することで、体を守るために過剰な反応を起こしてしまいます。これが食物アレルギー(即時型アレルギー)です。食品アレルギーの主な症状は下記です。
・蕁麻疹やかゆみ
・腹痛、下痢やおう吐
・のどの違和感
・唇や目のまわりの腫れ
・目の充血
・鼻水、くしゃみ、咳、呼吸困難
・アナフィラキシーショック(昏睡状態、血圧低下、けいれん、手の震え)
乳糖不耐症
乳糖不耐症の人は、牛乳に含まれる「乳糖(ラクトース)」を分解できずに、お腹がゴロゴロしたり、下痢や腹部膨満感などの不快な症状が生じたりします。よく食品アレルギーと乳糖不耐症を勘違いされる人がいますが、全く別物です。
乳糖不耐症は乳糖を分解する酵素である「ラクターゼ」が体内で作られず、乳糖を分解することができない体質のことです。
ラクターゼ欠乏のタイプは、先天的にラクターゼが欠乏している「先天性ラクターゼ欠乏症」、成人でラクターゼ活性の低下がみられる「後天性ラクターゼ欠乏症」、セリアック病や栄養障害、薬剤投与に伴う「二次性性ラクターゼ欠乏症」があります。
日本人は遺伝子的に、ラクターゼが欠損している人が多いようです。
カルシウムとマグネシウムのバランスの悪さ
牛乳に含まれるカゼインは、カルシウムと結合し、カルシウムの吸収を高めると共に、体内にカルシウムを運ぶ役割も担っています。一見、カルシウムが吸収されやすい牛乳は、体にとってよさそうなイメージがありますが、このカルシウムの吸収の良さには問題があります。
カルシウムとマグネシウムは互いに協力しながら、体内で恒常性(体内のバランスを常に一定にする働き)を保っています。カルシウムは筋肉や血管の収縮に関係し、マグネシウムは弛緩するように働きます。しかし、牛乳に含まれるマグネシウムは少なく、カルシウムが多いため、バランスが非常に悪いのです。
通常1:1の割合でカルシウムとマグネシウムを摂るのがよいとされているのですが、牛乳の場合100gあたりカルシウムが110mgで、マグネシウムが10mgの含有量(日本食品標準成分表2015年版(七訂)より)ですから、11:1という非常に悪いバランスです。
ただでさえ、マグネシウムは吸収が悪く、ストレスなどで消耗してしまうミネラルとなるため、牛乳を多飲すると、カルシウムだけが過剰となってしまうのです。カルシウムと比較したときに、マグネシウムが少ないと様々な弊害が生じてしまいます。
弊害の一つに、カルシウムの石灰化(せっかいか)があります。石灰化(せっかいか)とは、カルシウムの塊が体内の組織で沈着してしまう状態をいいます。
マグネシウムは、体内でカルシウムを溶かして、吸収率を高めてくれるのですが、マグネシウムが少ないと、カルシウムは血液中で溶けきれません。こうした状態になると、カルシウムの石灰化が起こります。
この石灰化による一例が、腎臓に石ができる腎結石(じんけっせき)です。さらに、その結石が尿管に移動すると尿管結石(にょうかんけっせき)になってしまい、尿管に結石が詰まることで、かなりの激痛に襲われます。
こうした病気は、カルシウムの摂りすぎが原因だと思われる方が多いと思いますが、実はマグネシウム不足が引き起こしている病気です。マグネシウムが少ないことで、生じる問題として、他には下記があります。
≪マグネシウム不足で起こること≫
・筋肉の緊張やけいれん
・頭痛や肩こり
・不安やパニック発作、不眠、うつ
・便秘
・解毒ができない
・心臓の病気
・高血圧
・低血糖
・不妊
・骨粗しょう症、虫歯
マグネシウムは腸の働きを整えたり、重金属を排泄したりと健康を維持するうえで重要な働きをします。
また、脳の神経伝達物質を合成する際に、マグネシウムが必要になりますので、不安感の強いときには、不足が考えられるミネラルです。「イライラしたらカルシウム不足」とよくと言われますが、むしろマグネシウムの方が、精神安定には欠かせません。
意外と、ストレスの多い人やお酒をよく召し上がる人、糖尿病の人は、体内からマグネシウムが排泄されてしまうので、補給が必要です。
さらに恐ろしい話をしますと、カルシウムと比較し、マグネシウムが少なすぎると、心臓疾患での死亡率が高くなるというデータもあるようです。
そして、牛乳の場合は酸性食品のため、体内の恒常性を保つための働きとして、アルカリ性のカルシウムが骨から溶け出してしまい骨が弱くなります。牛乳をよく飲む欧米人の方が、わたしたちアジア人と比べて、骨粗しょう症の割合が多いのはその為です。
では、カルシウムは何からとればよいのでしょうか。
カルシウムは大根の葉、モロヘイヤ、小松菜、春菊、チンゲン菜、水菜などの葉物野菜に多く含まれます。切り干し大根も非常におすすめです。また、しらす・イワシやししゃもなど骨ごとまるまる食べられる小魚や桜えび、干しえびもカルシウムが豊富な食材となります。特にしらすや桜えびは、マグネシウムが豊富で、しらすやイワシにはビタミンDが多く含まれていますので、骨を健康にするには大変おすすめの食材となります。また、マグネシウムとビタミンDは栄養療法のクリニックにて検査をして、不足している場合は、ドクター処方のサプリメント(※)を飲むのもおすすめです。
(※自己判断で安易にサプリを摂るのは危険が生じたり、効果が見られないこともありますので、適切に検査をしながらサプリを摂りましょう。)
さらに、日光浴をすると体内で活性型のビタミンDが作られますので、適度な日光浴は丈夫な体を作るために必要です。運動をして骨に負荷をかけることで、骨の強度が増すので、適度に運動を行うこともおすすめします。
ホルモン剤や抗生剤の問題
酪農家は、乳牛が病気にならないように抗生剤を投与しています。
また搾乳量を増やす目的で、成長ホルモンを与えたり、農薬がまかれた牧草を飼料にしていたりすることも問題です。こういった有害物質で汚染された牛乳を、私たちは口にしているという、大変恐ろしい現実があります。
とくに、ホルモン剤に関しては、エストロゲンを増やす原因となり、近年の増加の一途をたどっている乳がんの引き金になっているともいわれています。
牛乳にはカゼイン以外にも沢山の問題があることをお分かりいただけたかと思います。牛乳を元に作られる、ヨーグルトやチーズも同様に、避けるべき食品です。
では、具体的にどんな食品にカゼインが含まれているのか、下記を参考にしてみてください。
カゼインの含まれる食品
・牛乳、カフェオレなどの乳飲料、脱脂粉乳
・ヨーグルト
・チーズ(ピザ、パスタにかける粉チーズ、グラタン、リゾットなど)
・アイスクリーム、ソフトクリーム
・市販のクリームシチュー
・生クリーム(一般的な作り方のカルボナーラ)
・カスタードクリーム
・練乳
・洋菓子全般
※バターはほとんどの成分が脂質となりますので、対象外として考えて問題ありません。
バター100gあたりのたんぱく質は0.5g、1食あたり10gのバターを使用するとしても、たんぱく質量(カゼイン量+その他たんぱく質成分)は、わずかな量(0.05g未満)となります。
※バターを煮詰めた「ギー」は完全にカゼインフリーとなります。
※豆乳ヨーグルトであれば問題ありません。
※山羊ミルク(チーズ)は、牛乳とはちがう種類のカゼインとなるため、問題が起こりにくいとも言われています。
基本的にはパスタやピザなどの洋食・洋菓子に多く含まれますから、和食を心がけていれば、意外と避けやすいかと思います。グルテンフリーの食事療法(記事はこちら)よりもシンプルでわかりやすいです。
乳製品の代わりとなるおすすめ食品
次に、乳製品の代わりになる食品をご紹介いたします。
・アーモンドミルク
・ライスミルク
・ココナッツミルク、ココナッツクリーム
などがあります。ポタージュやシチュー、クリーム系のソースなど、クリーミーに仕上げたいお料理に使える代替用ミルクです。
豆乳ヨーグルトはスーパーで購入できますし、ホワイトソースを豆腐でつくることもできます。ただし、大豆製品も分解されにくいたんぱく質で腸に負担となりますので、頻度を減らしましょう。
また夏にアイスクリームが食べたくなったら、シャーベットにしたり、パンケーキが食べたくなったら、グルテンフリーの米粉・大豆粉、アーモンドミルクなどを使ったりしてお手製パンケーキを作ってみてはいかがでしょうか。
最後に
しかし、たまにチーズも食べたくなる人はいませんか。(はい、私です。)
牛乳をがぶ飲みするわけではないので、多少のチーズであれば、たまには多めに見てもいいかと思います。(食物アレルギーでなければ。)やはり、何事もストレスにならないように実践することが大事ですので、腸の状態が健康になってきているのであれば、少しゆるめにカゼインフリーを行うのも可能です。毎朝コップ1杯の牛乳を飲んでいる方がいるのでしたら、まずは、牛乳だけはやめてみて、ヨーグルトやチーズなどを多少は摂るというようなことからスタートしてみてもいいかと思います。
この記事の内容がお役に立てましたら幸いです。お読みいただき、ありがとうございました。