GI-MAP検査は米国Diagnostic solution社の開発した腸内環境を調べる検査です。定量的PCR法という非常に感度が高い測定法を用いています。
この検査のおかげで今まで見つからなかったものが見つかる様になり、腸内環境改善治療が大きく変化しました。病原菌が見つかった患者さんはラッキーです。なぜなら病原菌の除菌治療はその人の人生を大きく変える力を持っているからです
この記事では、そんな感度の良いGI-MAP検査でわかることについて当院での検査結果から得られた情報も交えて解説します。(数値は2024年2~4月の3ヶ月間、57名の方に行った検査結果を元にしています)
ヘリコバクタ・ピロリ菌
胃炎や胃がんを引き起こすことで有名ですが、消化管だけでなくアレルギーや自己免疫疾患、うつなどにも関わりを持つ非常に悪性度の高い細菌です。
この検査を行うと、比較的感度が良いピロリ菌の一般的な便検査や呼気検査で陰性の人にもDNAレベルでは腸にピロリが残っている人が多いことがわかります。
結果の見方です。
Helicobacter pylori の Result(結果)に数値が書かれていたら陽性です。赤字で書かれていれば、右に書かれているReference(基準値)を超えていることを示しています。
陰性の場合は、結果欄に<dlとだけ記されます。
注意したいのは、陽性だけど、Reference(基準値)を超えていない場合です。このように数値だけが記されて、赤字にはなっていないので注意が必要です。
このような基準値には達していないが、陽性の方も含めると、当院でのGI-MAPのピロリ菌検出率は72%と高率でした。この中には一般的に感染率が低いと言われる若年の方、またピロリ菌をすでに除菌して呼気検査で陰性になっている人も含まれています。
ピロリ菌の除菌治療は副作用も少なからずありますので、少量のピロリ菌を除菌するかどうかは意見が分かれるところですが、その一方で、長年の不調を抱える人が除菌だけで変わるのを多く見てきました。
他の検査で陰性だが胃腸症状がある方、治療にも関わらず皮膚や精神疾患が長引いている人は調べてみる価値があるでしょう。
共生細菌の減少
GI-MAPでは多くの共生細菌(良性細菌)の量が十分あるかをみることが出来ます。
共生細菌は食物繊維をエサにして短鎖脂肪酸というエネルギーを作り、それが腸の免疫を整えたり、バリア機能を強化したりしています。共生細菌の減少は腸内環境悪化の最初の一歩といって良いでしょう。
57名のGI-MAP検査結果によると腸内細菌の80~90%を占めるバクテロイデス門とファーミキューテス門が低い人の割合は、39%でした。
対策としては、腸内環境を素早く整えるプロバイオティクスも有用ですが、自分の腸内細菌を育てるために食物繊維やポリフェノールも摂る方が良いでしょう。
寄生虫
20年前から2,000件ほど他の便培養検査を行ってきましたが、寄生虫を見たことが一度もありませんでした。だから、寄生虫は昔の病気で、今日本で持っている人はいないだろうと思い込んでいました。
ところが、3年前にGI-MAP検査を行う様になってから、慢性の下痢の患者さんに寄生虫がたくさん見つかる様になりました。
中でも多いのはジアルジア(ランブル鞭毛虫)とアメーバです。海外生活、生水を多く飲む機会がある人。慢性の下痢がなかなか治らない人、カンジダを除菌してもすぐ戻ってしまう人は一度やる価値あります。
ここ3ヶ月間の統計では、寄生虫が見つかった人は57名中7名(13%)でした。
この方に見つかったのは小型アメーバ(Endolimax nana)です。何らかの症状があるか、もしくは腸内環境悪化の原因になっていれば、少量でも除菌の対象になります。
カンジダ
便検査ではカンジダの検出率は低いということを覚えておいてください。これはGI-MAPのような高感度DNA検査も例外ではありません(検出率は13%で、多くの患者さんが同時に行う有機酸検査のカンジダ陽性率は30%以上です)。カンジダを見つけたい場合は有機酸検査をしましょう。
逆に言えば、この検査で陽性の場合、腸内のカンジダはかなり多いことを意味します。
免疫の低下
腸管の免疫の指標は粘膜の免疫である免疫グロブリンIgAです。
例えば炎症があったり、ストレスが強かったりすれば、それに反応して上昇します。57名中IgAの上昇が見られたのは3名でした。
それに対して、炎症や副腎疲労が長く続くと免疫を作るタンパク質も消耗し、IgAも低下してきます。慢性疲労の患者さんが多い当院ではIgAが低下している人は57名中18名、つまり3人に1人でとても多い結果でした。
IgAは腸内で悪性菌を腸に生着させない、悪性菌を勢いづかせないという重要な働きを持っています。IgAが低下すると免疫が低下してピロリ菌や寄生虫が暴れ出します。
もともと腸に感染症を持っているけどなんの症状もない人がストレスなどで免疫IgAが低下して、胃痛や胸焼けなどを発症することはよく見られます。
抗グリアジン抗体
免疫グロブリンIgAの中でも、特にグルテンを構成するグリアジンタンパク質に対する抗体反応を調べることが出来ます。 この数値が高い人は少ない(3.7%)のですが、陽性の人はしばらくグルテンを控えた方が良いでしょう。
日和見菌の増加
GI-MAP検査は調べることができる日和見細菌の種類が多いことが特徴です。呼気検査でSIBO(小腸内細菌過剰増殖症)と診断されていても、実際には大腸の腸内細菌の過剰であることもあるし、消化不良のために未消化の食物を食べて特定の腸内細菌が増えている状態の場合もあります。
このようにBacillusとStaphylococcus、Streptococcusが増えているのは典型的な消化不良パターン。治療は消化酵素を足すことと早食いを止めることです。
炎症
カルプロテクチンは白血球中のタンパク質の一種で大腸の炎症を表す指標です。基準値が173とありますが、二桁あれば軽度の炎症あり、三桁以上なら炎症性腸疾患なども考えます。炎症対策は腸内環境改善で最初に行うべきです。
消化の問題
GI-MAPでは消化酵素が出ているか? 脂肪が消化できているか? について知ることが出来ます。
Steatocritは脂肪の消化の状態を表しています。便に脂肪が混ざると陽性になります。Elastase-1は消化酵素の分泌状態を見ています。基準値が200μg/g以上ですが、750が正常値だと考えて良いでしょう。
消化酵素が出ていないのは腸管外の臓器(つまり肝臓や膵臓など)の機能低下です。これはつまり、副腎や甲状腺、そしてミトコンドリア機能低下をフォローする必要があるということです。
ホルモンとの関わり
βグルクロニダーゼはグルクロン酸抱合した女性ホルモンを逆抱合して腸管に解き放ってしまう酵素です。解き放たれた女性ホルモンは血中に戻りホルモンレベルを上昇させるため、最近は乳がんとの関わりについて盛んに研究が行われています。
これが上昇する原因は大腸菌やクロストリジウム、バクテロイデスなどの腸内細菌の過剰増殖、抗生剤の使いすぎ、肝臓の問題など様々ですので、その原因に合わせての対処が必要となります。
他の便検査について
GI-MAPは特に検出できる病原菌の種類において優れていますが、共生細菌の種類の豊富さ、短鎖脂肪酸を直接測定できること、抗生剤の培養と感受性がわかることに関しては、ドクターズ・データ社のGI360も有用です。
どのような検査が最適かは人により異なりますので、受診時にご相談ください。