過敏性腸症候群(IBS)は下痢や便秘を繰り返したり、腹部膨満感が続いたりする病態です。人によって強い下痢症状であったり、便秘の方が強い症状であったりと様々ですが、病院にいっても器質的異常が見つからず原因不明となってしまいます。
ストレスやトラウマが背景にあることも多いようですが、腸内環境を良くしようと、従来の腸内フローラに良いと言われる食事でかえって調子を崩している人も少なくないようです。
過敏性腸症候群の人では、食物繊維、オリゴ糖、発酵食品により悪化していることが最近の研究により明らかになってきました。低FODMAP食という食事が過敏性腸症候群(IBS)に効果があるという研究とその方法についてご紹介します。
低FODMAP食とは
FODMAP食とはオリゴ糖、二糖類、単糖類およびポリオールの頭文字をとっています。
Fermentable Oligosaccharides→発酵可能なオリゴ糖
Disaccharides→二糖類
Monosaccharides→単糖類
And Polyols→およびポリオール
低FODMAP食は、オリゴ糖・二糖類・単糖類・ポリオールを少なくした食事法です。低FODMAP食は欧州で注目されている過敏性腸症候群(IBS)の治療のための食事法です。過敏性腸症候群(IBS)研究の先進国であるオーストラリアの研究が始まりです。
FODMAPs alter symptoms and the metabolome of patients with IBS: a randomised controlled trial
「FODMAPは、IBS患者の症状とメタボローム(代謝産物)を変える」
低FODMAP食を3週間行った研究
前述の論文には、
37人の患者を19人の低FODMAP食、18人の高FODMAP食に分けてIBS-SSS(過敏性腸症候群の重症度の評価スコア)は、低FODMAP食群(p <0.001)では低下したが、高FODMAP群では減少しなかった。
と書かれています。
本来腸に良いはずの食材がかえって、腸内細菌叢のバランスを乱してしまうのです。
ご存じの通り二糖類・単糖類はカンジダ菌の栄養源ですし、悪玉菌を増やしてしまうのは当然ですが、低FODMAP食の概念は、発酵を誘発する食材を減らす食事法です。
ぶどう糖や果糖は、酵母(カンジダ)やバクテリアによって、アルコール発酵されます。お酒を造る時、米に含まれる糖質が酵母によってアルコールが作られますよね。
あれです。
アルコール発酵(エタノールと二酸化炭素に分解)することでガスが発生するのです。このガスは過敏性腸症候群の人にとって大変辛い症状として悪化します。
しかし、オリゴ糖はプレバイオティクスとして本来は乳酸発酵(乳酸菌やビフィズス菌が腸内の有益な微生物を作ること)の材料となるはずです。
過敏性腸症候群の人はオリゴ糖が良くないのはなぜ?
ではなぜオリゴ糖が過敏性腸症候群の人にとって良くないかといいますと、腸内細菌叢が増えすぎてしまい(良い菌であっても)腸内の浸透圧が高くなり水分が増加し過ぎてしまい、過敏な腸がさらに過敏となってしまい、蠕動運動も活発となってしまうからなのです。
また、
低FODMAP食は、アクチノバクテリア(微生物)の豊富さと多様性を高め、高FODMAP食は、ガス消費に伴う細菌の相対的存在量を減少させた。
ということも文献に書かれています。
高FODMAP食では乳酸発酵が活発になりすぎてしまい大腸内でガスが大量に発生→相対的にある種の細菌が減少してしまい腸内バランスがおかしくなってしまうということです。
一方の低FODMAP食では腸内細菌に多様性が出てきて、バランスがよくなると説明があります。
なんか腸内フローラは人間界と似ている気がしませんか?
主張が強い協調性のない人達が集まりすぎると、まとまりがなくなり喧嘩が勃発するかもしれません。ある程度調和のとれる人達が多い集団だとうまくいく事があるような気がしますが、それに近い感じがします。
低FODMAP食材について
ここからは具体的な低FODMAP食についてお話しをしていきます。
①単糖類・二糖類の多い食材を控える
果物全般、砂糖(甘い物)、ジュース、アガベシロップ、はちみつ、乳糖(牛乳・ヤギ乳・ヨーグルト)
②オリゴ糖(発酵性の食物繊維もなるべく少なくする)を控える
甘味料のオリゴ糖、大豆、小豆、おくら、ごぼう、らっきょう、玉ねぎ、にんにく
③発酵食品を控える
納豆、粕漬、漬物、キムチ、麹、味噌、チーズ、ヨーグルト
④ポリオール(糖アルコール)を控える
ソルビトール(ソルビット)、マンニトール(マンニット)、キシリトール
ソルビトールは甘味料として食品添加物に扱われています。甘納豆、菓子類、ジュース、乳酸飲料、ソース、漬物、佃煮など。毒性はほとんどないとされています。ただし、過敏性腸症候群でなくても、1日50g以上とると、腸から吸収されにくくなり、下痢を起こすことがあります。自然界では、果実や海藻に含まれ、とくにリンゴ・梨・桃などに多く含まれています。
マンニトールはもともと海藻やきのこなどに含まれている甘味物質で、こちらもまた糖アルコールの一種です。増粘防止剤として食品添加物にも使われています。使用されることの多い食品は、ガム、飴、ふりかけなどです。動物実験では毒性は認められていないとされています。
キシリトールも元々イチゴやプラムなどに含まれている糖アルコールになります。ガム、菓子類などの食品添加物の甘味料として使われています。こちらも安全性にはほとんど問題がないとされている食品添加物ですが、消化器系に負担をかけるので要注意です。
どちらにしても、小腸で分解・吸収されない栄養素は摂りすぎると逆効果になることを念頭に置いて食材選びをする必要はあります。
いくら虫歯のリスクがなく、血糖値を上げないからといって糖アルコールのキシリトールもリスクがありますし、エリスリトールは他の糖アルコールと比べて比較的、消化器系に負担が少ないとは言われていますが、過敏性腸症候群の人は避けましょう。
どんなに胃腸に自信がある人でも、単一の食材を大量に摂る事は避けましょう。何事も過ぎたるは及ばざるが如しです。
低FODMAP食のやり方
①~④の食材を摂ってはいけないのではなく、減らしていくことが低FODMAP食です。もしFODMAP食材をゼロにしようとすると本当に食べるものがなくなり、栄養失調になってしまいます。
まず①~④の食材を3週間控えます。そこで過敏性腸症候群の症状が楽になれば、①~④の食材を項目(単純糖質・オリゴ糖・発酵食品・糖アルコール)ごとに再開してみて何に反応するのかを調べます。
また、①~④の食材を3週間控えて過敏性腸症候群の症状に何の変化もなければ他のところに原因があるのかもしれません。しっかりと専門の医療機関で検査をすることをおすすめします。
病態によって発酵食品を摂るか摂らないかを見分ける
日本には昔から発酵食品の文化があります。
この低FODMAP食の治療は欧州・オーストラリアでは盛んにおこなわれている過敏性腸症候群の食事法なのですが、日本では発酵食品ブームということもあり、発酵食品を減らすとなると余り乗り気にならない人も多いかもしれません。
発酵食品の良さは沢山ありますが、過敏性腸症候群やお通じが不安定な方にとっては悪影響となることを頭に入れておいてください。万人に合う食事法はありません。
重大な疾患が見逃されないためにも検査をしましょう
今まで、腸に良いとされる食材を沢山摂られてきていても、繰り返す便秘や下痢、腹部膨満感が治らない人は間違った食事が原因かもしれません。
しかし、過敏性腸症候群と診断されていても「セリアック病」などの病気が背景にあるかもしれませんので、独自で安易に判断せず、専門の医療機関にかかって器質的異常がないかの検査やセリアック病の検査なども行うことをおすすめします。
勿論食事ではなく、ストレスが原因で過敏性腸症候群となるケースもかなり多いので、ストレスの対処法を見つける必要があるかと思います。
万人に合う食事法はありません。過敏性腸症候群でお悩みの方にとって、この記事が何か一つでもお役に立てることがありましたら幸いです。
<参考文献>:
●食品添加物 毒性判定事典 渡辺雄二著
●FODMAPs alter symptoms and the metabolome of patients with IBS: a randomised controlled trial
「FODMAPは、IBS患者の症状とメタボローム(代謝産物)を変える」