副腎疲労の提唱者ジェームス・ウィルソンの著書「アドレナル・ファティーグ」には、「朝、起きられない」「立ちくらみがする」「何をしても楽しくない」など様々な副腎疲労の症状が記されています。
「アドレナル・ファティーグ」に記されている症状
「つかれやすい」「朝起きられない」「寝ても疲れがとれない」「塩辛いものがほしくなる」「性欲低下」「ストレスに対処できない」「病気やけがな治るのが遅い」「立ちくらみ」「うつ」「何をしても楽しくない」「食事を抜くと悪化する」「PMSの悪化」「我慢が出来なくなった」「集中力がない」「記憶力が落ちる」
このように副腎疲労の症状は多岐にわたりますが、この中には副腎の機能低下による症状と、ストレスの影響による全身症状が混在しています。これらに対する治療はそれぞれ異なります。
コルチゾールの働きが低下する
副腎は様々なホルモンを分泌しているため、副腎が疲れるとホルモンの欠落症状が出てきます。
コルチゾールの働きと欠落症状
働き | 欠落症状 |
---|---|
血糖値を上げる | 低血糖 |
血圧をあげる | 立ちくらみ |
塩分を保つ | 塩辛いものが食べたくなる |
活力を保つ(特に朝に多く分泌される) | 朝が起きられない |
このような症状が出る場合、アダプトゲンサプリなどが副腎の回復を手伝ってくれます。
また、コルチゾールとエストロゲンやプロゲステロンなどの女性ホルモンはコレステロールという共通の材料から作られるため、副腎疲労に陥った場合、体は女性ホルモンよりもコルチゾールを優先して作ろうとします。
そのために特にプロゲステロンが不足し、月経前症候群(PMS)などを引き起こす場合があります。更年期以降の女性では卵巣に代わって副腎から女性ホルモンが分泌されるようになるので副腎の働きはさらに重要となります。
副腎疲労に伴う全身の症状
長年続くストレスは副腎だけでなく全身に影響します。全身に症状が及ぶと、休暇を取ったり副腎疲労サプリを摂ったりしてもなかなか改善がみられないことがあります。
これは、宮澤医院を初めて受診した副腎疲労患者150名に対するアンケート結果です。
長年続くストレスは副腎だけでなく全身に影響します。全身に症状が及ぶと、休暇を取ったり副腎疲労サプリを摂ったりしてもなかなか改善がみられないことがあります。
当院にいらっしゃる副腎疲労の患者さんは、来院される前に自分でサプリメントを摂ったり、クリニックにかかったりしていることがわかりました。
それでもなかなか良くならずに来院されるのですから、単純な副腎疲労だけの問題ではない事が多いようです。
そんな患者さんに対して初診時に症状を詳しく聞いた結果が下記のグラフです。「慢性疲労」もさることながら、「腹部膨満感」「睡眠障害」「筋肉痛」などが意外と多いことがわかります。
この症状の原因を突き止める事が全身のストレス症候群を根本から治すヒントを与えてくれます。
腹部膨満感
今や、ストレスが腸内の乳酸菌を減らし、悪性細菌を増やす事が多く報告されるようになりました。当院来院の副腎疲労患者さん150名に腸内環境検査を行ったところ、ほとんどの方に腸内環境の乱れを認めました。
これから、腹部の膨満症状は悪性細菌や真菌などの異常発酵によるものと考えられます。ストレスは副腎と同じく腸に大きな負担をかけるのです。
睡眠障害
睡眠の質を高めるのに有用なメラトニンは夜多く分泌され、朝には減少します。つまり、メラトニンの24時間の分泌曲線はコルチゾールの分泌曲線と正反対に動くのです。
コルチゾールの分泌がうまくいっていない副腎疲労患者では、メラトニン分泌にも影響している可能性が高いと言えます。
・起立性調節障害の背後に副腎疲労あり
筋肉痛
筋肉痛を起こす病態として副腎疲労と共通するのは、細胞内のカルシウムとマグネシウムのアンバランスです。マグネシウムが足りないと筋細胞は過剰な収縮を起こして元に戻らなくなります。
(参考論文)
・線維筋痛症患者では、毛髪のカルシウム、マグネシウム値に異常が見られる
当院の副腎疲労患者150名のうち繊維筋痛症という病名を付けられていた人は6名いました。「不眠」「頭痛」「不安」「筋肉の痛みと硬直」などは、線維筋痛症とマグネシウム不足に共通してみられる症状です。
長年のストレスは補酵素ミネラルであるマグネシウムや亜鉛を消費します。毛髪検査の結果では副腎疲労患者さんの64%にマグネシウム不足(カルシウム・マグネシウムバランス異常)を認めました。
集中力低下
人間が長時間ご飯を食べなくても血糖値が維持されるのは、肝臓でアミノ酸や脂肪からブドウ糖が作られているからです。これを糖新生といいます。
副腎から分泌されるコルチゾールは肝臓での糖新生を促し血糖値を維持しています。そのため副腎疲労になると血糖値が不安定になり、脳機能に支障が出ることがあります。集中力の低下もその一つです。
その他、副腎疲労に合併しやすい腸内環境異常も精神的に異常をきたすことがあります。特に腸カンジタの過剰増殖は発生するアンモニアやアセトアルデヒドのせいで「脳に霧がかかった」様な症状を引き起こします。このような場合、便秘を解消する事が解決の第一歩となります。
・腸カンジタが引き起こす症状
うつ
副腎疲労は様々な要因でうつと関連します。
治療抵抗性うつ病と炎症
慢性のストレスは胸腺を萎縮させ免疫低下を引き起こします。免疫系が弱いと体の各所で炎症を生じるようになります。
一般的に抗うつ薬の効きにくいうつ病を治療抵抗性うつ病といいますが、慢性炎症はこのタイプのうつ病の大きな原因であることが報告されています。治療抵抗性うつ病ではしばしば炎症性マーカーが上昇しているのです。
慢性ストレスが炎症を引き起こす
ストレスは炎症反応を活性化し、副腎に負担をかけます。
コルチゾールが慢性的に出続けると、副腎疲労を起こすと共に、コルチゾールが炎症を抑えられなくなってくることもわかっています。
コルチゾールの受容体のダウンレギュレーション(受容体の数が減り、その物質に対する感受性が減少すること)が起きるためにこのホルモンの効きが弱くなってくるのです。
腸脳相関の影響
副腎疲労患者さんの多くに腸内環境の悪化がみられます。腸内環境の乱れは迷走神経を伝って脳にダメージを与えます。また、リーキーガット症候群によっておこる炎症性物質が、脳まで届きリーキーブレイン症候群を引き起こすことも示唆されています。
以上のような事から、「副腎」「うつ」「腸」は複雑に絡み合って、「副腎疲労症候群」を形成していると考えられ、これら一連の病態に対して並行して治療を行う必要性があります。
炎症を起こしているうつ病の人には抗炎症薬が有効だという報告もありますが、それだけでなく、炎症を起こしている場所を特定し直接炎症を癒すこと、副腎のケアも同時に行うことがこの複雑な病態の根本的な解決方法だと言えるでしょう。
副腎疲労の代表的な症状を下記にまとめていますので、こちらもご覧ください。