ステップ2の続きです。
さて、治療方針と順番が決まりましたか?
しかし、その方針は病態から推測したものであり、仮説にすぎません。本当にその方針があっているか、様々な検査を使って確認していきます。
日本の病院で行われる検査は5mmのがんや、2mmのポリープなど「目に見えるもの」を見つけるのは得意ですが、「目に見えないもの」(ホルモンの微妙な変化や体内に貯まっている水銀の量など)に関しては感度がとても悪い、もしくは検査そのものがないのが実情です。
だから、脳の神経伝達物質やミトコンドリアの状態、ホルモンバランスや重金属、非金属の体内蓄積など特殊な検査に関しては海外の会社を頼ることになります。
重要:サプリメントを用いた自然治療が適応となるのは、器質的な疾患がない場合に限ります。必ず、一般的な治療を行っている病院でも診察を受けて、器質的な疾患がない事を確認してください。
まずは基本の血液検査
最初に欠かせないのは基本の血液検査です。
これは、栄養状態の過不足、酵素活性、ストレス度合いなどを血液検査から推定し、栄養処方の一助とするものです。この方法は実際に、日本国内の多くの分子栄養学医に活用されているものであり、私もこの方法を用いて、15年間で12,000人以上のデータを解析してきました。
栄養状態を知るなら一般的な健診項目だけではなく、以下のような項目も測っておくと便利です。
- フェリチン・・・貯蔵鉄を評価するのに最適な指標。ミトコンドリア機能も反映します。
- 亜鉛、銅・・・脳の栄養という観点から言えば、亜鉛と銅の数値が同じ位の数値が理想的です。銅の過剰は不安な気持ちを強くします。
- ペプシノーゲン1・・・胃酸の分泌量を反映します。胃酸や消化酵素が十分出ているかどうかは栄養状態に大きく影響します。
- ホモシステイン・・・動脈硬化の因子としても、メチレーション回路が回っているかを知る手がかりとしても有益です。
- ビタミンD・・・ビタミンDの効果は血中濃度に比例します。免疫増強を求めるなら40 ng/mL 以上を目指しましょう。
この血液検査から栄養状態を読み取る方法論は一般の医療界には認められていないものであり、勿論、大規模試験に基づくエビデンスなどはありません。あくまでも、生化学的な理論および、経験から推察されるものです。栄養状態を読み解く大きな手がかりを得られる反面、生体における病態の根本原因を探る手段としては、不十分な点もあります。
スクリーニングに最適な有機酸検査
朝一番の尿を取るだけで、腸内環境、ミトコンドリア機能、脳神経伝達物質のバランス、炎症の程度など、広い範囲で体を知ることができるのが米国のグレートプレーンズ研究所が提供している有機酸検査です。
スクリーニングというのは最初のふるい分けを意味する言葉で、とにかく検査でわかる範囲が広いので、「詳しい状況はよくわからないけど、とにかく調子が悪いので検査をやってみたい」という方にもオススメです。
ビタミンやミネラルの欠乏、イーストやクロストリジウム菌の過剰増殖、糖質、脂質、たん白代謝。毒性物質の解毒状況なんかもわかります。
どのようにして尿検査で腸内環境がわかるのでしょうか?
腸に住んでいる酵母菌の産生物は分子量が小さいため、正常の腸からもある程度は吸収され、肝臓、腎臓を経由して、尿として排出されます。その排泄物を分析しているのです。
また例えば、多くの精神疾患で脳内のドーパミンレベルが高いことが報告されています。過剰のドーパミンは神経細胞を傷つけるので、順次ノルエピネフリンに転換されるのが普通です。有機酸検査では、尿中のドーパミン、ノルエピネフリン代謝物を測る事で、これらの量を推測することができます。
それだけではありません。ミトコンドリア機能障害の評価もできますし、解毒に重要なグルタチオンのレベルもわかります。新生児スクリーニングでも行われるアミノ酸代謝異常もカバーしています。
迷ったら有機酸検査です。
腸内環境を評価する
腸内細菌はビタミンB群やビタミンKを作り出し、栄養の吸収を助け、食物繊維を発酵させてエネルギーに変えたりとさまざまな働きを行っていますが、中でも最重要なのは腸のバリア機能を保つことです。
腸管は自分に必要な栄養は十分に吸収し、細菌や毒物、未消化のタンパク質などは取り込まないように選択的なバリアを作っています。この見事な機能は「神の手」と称されてきました。
現代の食生活や環境のせいで、このバリア機能が破綻してしまっている人が増えており、これをリーキーガット症候群と呼びます。これがおきてしまうと、腸に空いた穴から有害物質が血管に侵入し、いたるところで免疫反応が起き、慢性炎症を引き起こししてしまいます。
ここで、腸のバリアを構成する因子を再確認しましょう。バリアは大きく細菌学的バリア(乳酸菌とかビフィズス菌)、免疫学的バリア(粘膜免疫のIgA)、物理的バリア(細胞と細胞の間を結合しているタンパク)の3つに分けられます。これらのバリアが壊れて腸に炎症を起こしていないか、タンパク質を分解する消化酵素は十分か。
これを調べるのに最適なのが Doctors Data(ドクターズ・データ)社の(包括的便分析検査(Comprehensive Stool Analysis)です。
Comprehensive(包括的)というだけあって、カンジダなどイーストの有無、消化酵素の分泌、炎症の程度、腸管免疫、短鎖脂肪酸の生成など様々な情報を与えてくれます。
検査結果に応じて、乳酸菌が足りなければ乳酸菌、消化酵素が足りなければ消化酵素を足し、カンジダ菌がいれば除菌治療、炎症が強ければグルタミンやケルセチンを足していく事でかなりの確率で腸内環境がよくなっていくのを実感されるでしょう。
腸内フローラは人や地域によって大きく異なり、どの菌が良くてどれが悪いとは簡単に決め付けられない現状ですが、ビフィズス菌と乳酸菌は多くの研究から良い事が示唆されており、その量が推測できるのは大きなアドバンテージです。
但し問題点もあります。腸内細菌は嫌気性が多く、空気に触れると死んでしまいます。ですから培養検査が難しいのです。実際に培養検査で検出できる菌は全体の30%以下です。
それを解決するのが腸内細菌のDNA検査です。名の通り、腸内細菌のDNA解析を行うため細菌が生きてるかどうかに関係なく検査可能です。最近は日本でも腸内細菌DNA分析をすることができるようになりました。
自覚症状はあてにならない
「自覚症状があれば、 検査なんて必要ない」と思う方もいるかもしれません。しかし、腸の炎症を自覚できる人は少ないことを覚えておいてください。
宮澤医院で上記の便検査を行った50名の患者さんに繰り返す便秘や下痢、腹痛などの自覚症状があるか聞いたところ、40歳未満では3分の1、40歳以上になると3分の2の方は症状がないと答えました。
毛髪で重金属の排泄力を評価する
アジア地域の工業における水銀排泄量は世界的に見てもかなり多く、火力発電所で使用される石炭中の水銀が大気中に放出、海に落ちて生物濃縮され、魚に蓄積しています。
体が大きく寿命が長い魚ほど濃縮は大きくなります。現在、マグロやクジラに含まれる水銀量は無視できないほど多くなっているのが現状です。
いくら避けようとしても、現代に生きている限り、体内に入ってくる金属の量をゼロにする事はできません。重要なのは、入ってきた金属を排泄する能力です。
自閉症児は健常な子供に比べて、水銀を排泄する力が弱い事がわかっています。毛髪検査は水銀の排泄能力が保たれているかどうかを簡単に調べられる優れた検査です。
検査で重金属を排泄する力が弱い場合、解毒治療が必要になります。逆に多少金属の蓄積があっても、排泄する力が保たれていれば積極的な解毒治療は必要ありません。
また、この検査からは、有害金属だけでなく必須ミネラルのバランスや体のストレス具合など多彩な情報を読み取る事ができます。
副腎疲労を評価する唾液検査
副腎疲労は、ストレスにより副腎機能が低下してホルモン分泌量が低下する病態ですが、その低下量は難病として知られるアディゾン病と比べれば僅かです。
だから、血中のコルチゾールを測定してもほぼ正常範囲と出てしまいます。検査が正常なのに症状があるので問題なわけで、それを解決するためにはより感度の高い検査を行い、コルチゾールが低下している事を確かめる必要があります。
一番簡単なのは、唾液中コルチゾール検査です。唾液のスピッツを持っていればどこでも検査ができます。
血中のコルチゾールは実際には働いていない非活性のコルチゾールもまとめて測れてしまいますが、唾液中コルチゾール検査では活性型のコルチゾールだけを測る事ができるため、非常に鋭敏です。
唾液中コルチゾール濃度は血清中の非結合コルチゾール濃度に比例する
Ann Clin Biochem. 1983 Nov;20 (Pt 6):329-35.
人のコルチゾールは1日の中でも分泌量がだいぶ異なり、朝には多く出ますが、夕方から夜にかけてはほとんど出なくなります。それに合わせて、8時、12時、16時、24時と1日4回唾液を取って検査を行います。
婦人科系疾患の人がまず治療すべき臓器
乳がんや子宮筋腫、子宮内膜症、PMSなど、エストロゲンという女性ホルモンの過剰が原因になっている病気を持つ人が優先的に治療する場所は肝臓です。
なぜなら、余ったエストロゲンは肝臓で分解、解毒されるからです。特に悪玉と呼ばれる16OHエストロゲンの過剰が婦人科疾患に大きく影響しています。
Rhein consulting laboratories社が提供している尿中ホルモン検査はコルチゾールだけでなく、テストステロンやエストロゲン、DHEAなど女性ホルモンや男性ホルモンのすべての項目を一度に測ることができます。
24時間尿をためて行う検査ですので、やや面倒に感じるかもしれませんが、測定の正確さ、情報の多さはピカイチです。これからホルモン補充療法を行う計画がある人も必ずやっておきたい検査です。
脳機能の評価に使える遺伝子検査
うつや統合失調症、ADHDなどの疾患では脳内の神経伝達物質のバランスが問題になる事が多いです。ドーパミンやノルエピネフリン、セロトニンの量に関しては有機酸検査や血液検査で推定する事が可能です。
しかし、発達障害の子供の場合は、それ以外に遺伝子検査をすることが有用かもしれません。言語の習得に必要なドーパミンや解毒が十分に行われるためには体内のメチレーション回路がうまく回る必要があります。ほとんどの自閉症児はこれがうまく働いていませんが、その原因の多くは遺伝子変異にあります。
これは、ドクターズ・データ社のDNAメチレーション検査。メチレーションに関わる遺伝子の変異の殆どをカバーしています。
子供の脳神経は4歳までに80%完成してしまいますから、時間との勝負です。気が付いたら早めに始めることです。
まとめ
これでようやく、治療ピラミッドを構成する要素が固まりました!
あとは、原則下の段から治療を行っていきます。
宮澤医院ではご紹介した検査を全て取り扱っています。ご希望の方は検査キットをお送りする事も出来ます。(一部できないものがあります)
ここまでできたらいよいよ治療にとりかかります。
→ステップ4治療の実際