人の卵子は卵子としてでなく、前段階の卵母細胞として卵巣に存在しています。
生理がはじまると黄体ホルモンが分泌され、この細胞の分裂、成熟、排卵を促し、卵子となって受精を受け入れる用意を整えます。つまり、卵子の成熟状態が妊娠を大きく左右する要因ですが、それにはミトコンドリアが大きく関わります。
なぜなら、卵子には10万個のミトコンドリアがあって、エネルギーであるATPを産生し、卵子の成熟、受精などで大きな役割を演じているからです。環境因子やストレス、老化などが原因でミトコンドリアが障害されると、受精ができなかったり、胚の分割が途中で止まったりして不妊症の原因となります。
不妊治療の前にミトコンドリアのケアが必要な理由
卵子の元である卵母細胞の品質は受精および発育にとって重要です。実際に、卵子の成熟を妨げる要因には不十分なATP、カルシウムホメオスタシス、などミトコンドリア機能不全に関連するものが多いのです[1,2]。
また、卵母細胞の老化はミトコンドリアの機能不全と強く関連していることもわかっています[3,4,5,6]。
ミトコンドリア機能はミトコンドリアDNAに影響される
ヒトミトコンドリアのDNAは、核に比べて非常に小さい約16000の塩基対からできていますが、これらのほぼすべての遺伝子がエネルギーの合成に関与しています。ミトコンドリアDNAの塩基配列の一部が失われる事は、老化の指標とも考えられ[7,8]、低エネルギー生産に関連します。
また、ミトコンドリアDNAの突然変異は、ミトコンドリア機能に悪影響を及ぼし、胚の発生に悪影響を与えます。さらに、卵母細胞のミトコンドリアの突然変異は、代謝疾患に対する感受性を子孫に遺伝させてしまうかもしれません[9,10]。
ミトコンドリア機能を保つために、活性酸素対策が重要
ミトコンドリアのDNAを健全に保つため、多くの探究がされていますが、特に、過度の活性酸素種(ROS)の生成は、酸化的な損傷を引き起こす可能性を示唆しています。ミトコンドリアは細胞内で最大の活性酸素発生源であり,そのためミトコンドリア DNA は核よりも強い酸化傷害を受けているのです。
ROSはATP産生中に生成され、ミトコンドリアDNAに酸化的損傷を引き起こし、遺伝子変異および塩基配列を失わせますが、ミトコンドリアDNAの修復酵素は最小限であるため、ミトコンドリアは酸化ストレスに起因する損傷に対して特に感受性が高いのが問題となります[11]。
以上から、不妊治療に関してはミトコンドリアをターゲットにした、活性酸素対策が非常に重要となります。
具体的な方法についてはこちらもご覧ください。
参考文献
[1] Reproduction. 2011 Dec;142(6):793-801.[2] Mol Reprod Dev. 2011 Oct-Nov;78(10-11):757-68
[3] Obstet Gynecol Int. 2013;2013:183024.
[4] Physiology (Bethesda). 2011 Oct;26(5):314-25
[5] Hum Reprod Update. 2009 Sep-Oct;15(5):573-85
[6] Mitochondrion. 2011 Sep;11(5):783-96
[7] Mol Hum Reprod. 2007 Mar;13(3):149-54
[8] Nucleic Acids Res. 1990 Dec 11;18(23)
[9] Reproduction. 2004 Sep;128(3):269-80.
[10] Ann Neurol. 2008 Jan;63(1):35-9.
[11] Annu Rev Biochem. 2010;79:683-706