考えたり、行動したり、感情的になったりするとき、脳の中では ドーパミンやセロトニンなど 多くの神経伝達物質が作られています。
これらは元から脳内にあるわけではなく、必要に応じてその都度作られます。
脳内でL-ドーパをドパミンに、5−ヒドロキシトリプトファンをセロトニンに変換する酵素が芳香族アミノ酸脱炭酸酵素(DOPA decarboxylase)ですが、この酵素が働くためには補酵素としてビタミンB6が必須です。つまり、ビタミンB6不足はドーパミン、セロトニン不足を招きます。
ここではビタミンB6と神経の深い関係について解説します。
B6不足を血液検査から推測する方法
健康診断で行われる血液検査では、体内で働く酵素の活性を測定しているものがいくつかあります。例えば肝機能の指標であるAST(GOT)やALT(GPT)は肝細胞に含まれる酵素です。
アルコール性肝炎や脂肪肝では、肝臓の細胞が破壊されて血中に酵素が漏れ出てくるため、これらの数値は上がります。
その一方で、GOT、GPTは補酵素としてビタミンB6を必要とします。だからビタミンB6が不足するとGOT、GPTの数値は低下します。
つまり、GOT、GPTの数値が低ければ、ドーパミンやセロトニン不足の指標として使えるということになります。
銅、亜鉛、マグネシウムと神経伝達物質の関わり
また、NMDA型のグルタミン酸受容体の活性にはマグネシウムと亜鉛が必要です。マグネシウムと亜鉛の活性度はALPで見ることができます。
グルタミン酸神経が活性化するとイライラする事があります。そんな時にはビタミンB6を摂るとグルタミン酸が抑制系の神経伝達物質GABAに変換されやすくなりますが、血中のALPが低めの場合はさらにマグネシウムと亜鉛を足すとよいかもしれません。
さらに、注意力に関わるノルアドレナリン量も血液検査から推測できます。必要な項目は血中亜鉛と銅です。
ドーパミンがノルアドレナリンに変換されるには補酵素として銅が必要です。(ドーパミンをノルアドレナリンに変換する酵素はドーパミンβ-ヒドロキシラーゼ(DβH)で、その活性中心は銅です。)
亜鉛不足は銅過剰を招き、銅が多いとドーパミンからノルアドレナリンへの変換が亢進し、ノルアドレナリン量も過剰になります。
症状はとしてはイライラが募ったりします。
さらに詳しく調べたい場合は、有機酸検査をお勧めします。
有機酸検査でドーパミンとノルアドレナリンの比率がわかりますが、腸内環境が悪い場合、クロストリジウムの代謝産物がDβHを阻害するため、ドーパミンが多く、ノルアドレナリンが低くなります。
ドーパミンが増え過ぎると多動になり、その結果、集中力が低下するなどの症状が出ます。特に、腸内環境が悪い子どもによく見られます。
ビタミンB6はエストロゲン代謝にも影響する
ドーパミンやノルアドレナリンの代謝酵素はCOMTというタンパク質で、補酵素はやはりビタミンB6です。
COMTはエストロゲン代謝にも関与しているため、B6不足の時はCOMTの活性が低くなり、エストロゲン代謝が悪くなります。そのため、B6不足はホルモン感受性陽性の乳がんなどの婦人科系疾患に関連すると言われています。
生理前はエストロゲンが多く、COMTがエストロゲン代謝に回されてしまいます。すると、代謝されなかったノルアドレナリンが増えてイライラしやすくなります。
ビタミンB6を制限した方がいい時もある
セロトニンは通常、トリプトファンから5HTPを通じて作られます。しかし、感染やストレスがある場合、トリプトファンはセロトニン生成にはいかず、キノリン酸からナイアシンをつくるキヌレニン経路に進みます。
キヌレニンからキノリン酸への変換でB6は補酵素として働くため、過剰のビタミンB6はより多くのキノリン酸を作ります。
キノリン酸には強い神経毒性があります(グルタミン酸神経と同様の働きをして、興奮が強くなります)。特にお子さんでビタミンB6を多めにとると興奮する場合があるので、その際は摂取量を減らした方がいいでしょう。
有機酸検査のキノリン酸/5-HIAA比率を見ることで、キノリン酸に代謝が傾いているのがわかります。
さらに、B6はグルタチオンやタウリンを作る酵素であるCBSの補酵素としても働いています。 この酵素は働き過ぎるとアンモニアの代謝を促進することがあります。子どもで頭がボーっとする場合も摂取量の調整が必要です。
血液検査の数値は個人差が大きいため○○以下ならセロトニン不足とはっきり決めつける事は出来ません。また、脂肪肝など肝臓疾患などがあれば数値は上昇しますので、数値が下がっていないから問題ないとも言えません。医療機関で定期的に数値測定をしてもらう事ではじめて自分の最適値が明らかになってきます。