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うつ病

内科

私たちの思考、感情、行動は、脳内の神経伝達物質のやり取りから生まれます。

うつ病はこれらのバランスが崩れることで起こる生化学的な病態です。

一般的なうつの治療では、薬物で神経伝達物質を調整しますが、栄養療法では、神経伝達物質の材料を補ったり、代謝異常を整えることを目指します。

脳の構造と神経伝達物質

人間の脳内には1000億個の神経細胞があり、お互いにつながりネットワークを形成しています。

神経細胞同士のつながっている部分をシナプスといいます。シナプスのシナプス小胞には、セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどの神経伝達物質が存在し、神経細胞から別の神経細胞に情報を伝えています。

これらが減ってしまう事がうつ病の有力な原因の一つだと考えられています。

うつ病の症状と神経伝達物質

うつ病の症状は、関与する神経伝達物質によって大きく異なります。

セロトニンが不足すると、憂うつ感や不安感といった典型的なうつ症状が現れます。また、セロトニンは睡眠や食欲の調節にも関わっているため、寝つきが悪くなったり、熟睡感が得られなくなったりします。さらに、セロトニンの90%以上は腸で作られるため、便秘や過敏性腸症候群などの消化器症状も現れやすくなります。慢性的な痛みや線維筋痛症も、セロトニン不足と深く関連しています。

一方、ドーパミンが不足すると、意欲低下ややる気の減退が主症状となります。ドーパミンは「やる気のホルモン」とも呼ばれ、集中力や達成感、喜びを感じる能力に深く関わっています。そのため、ドーパミン不足では仕事や趣味に対する興味を失い、疲労感やエネルギー不足を強く感じるようになります。また、ドーパミン不足を補おうとして、買い物やギャンブル、甘いものなどに依存してしまうケースも少なくありません。

GABA(ガンマアミノ酪酸)が不足し、興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸が過剰になると、強い不安感やパニック発作が起こりやすくなります。GABAは「ブレーキ」の役割を果たしているため、この機能が低下すると、些細なことでもイライラしたり、興奮しやすくなったりします。筋肉の緊張も強くなり、睡眠の質も低下してしまいます。

うつ病の根本原因

当院では、うつ病の原因を単一ではなく、複数の要因が複雑に絡み合って起こると考えています。

栄養素の不足と消化機能の低下

すべての神経伝達物質は、アミノ酸から作られています。セロトニンの原料はトリプトファン、ドーパミンの原料はフェニルアラニンやチロシン、GABAの原料はグルタミン酸です。これらのアミノ酸が不足すれば、当然神経伝達物質も不足します。

また、単に原料があるだけでは十分ではありません。神経伝達物質の合成には、補酵素と呼ばれる栄養素が必要です。特にビタミンB6は、ドーパミン、セロトニン、GABAの合成に必須の栄養素です。

また、ビタミンB3(ナイアシン)は脳のエネルギー代謝に、鉄はドーパミン合成酵素の補因子として、亜鉛は100以上の酵素反応に、マグネシウムは神経の興奮抑制に、それぞれ重要な役割を果たしています。

さらに見落とされがちなのが、消化機能の問題です。どんなに良い食事を摂っても、胃酸不足や消化酵素の不足、腸内環境の悪化などがあると、栄養素が適切に吸収されません。特に現代人は、ストレスや生活習慣の乱れにより消化機能が低下している方が多く、これが神経伝達物質の材料不足につながっているケースが非常に多く見られます。

慢性炎症による代謝経路の歪み

体内に慢性的な炎症があると、神経伝達物質の代謝経路に大きな影響を与えます。特に重要なのが、トリプトファン代謝の異常です。

通常、セロトニンの原料であるトリプトファンの約10%がセロトニン合成に使われます。しかし、体内に炎症があると、90%がキヌレン酸経路に流れてしまい、セロトニン不足を引き起こします。さらに問題なのは、このキヌレン酸経路で作られるキヌレン酸が神経毒性を持つことです。つまり、炎症があると、セロトニンが不足するだけでなく、脳に有害な物質まで作られてしまうのです。

この炎症の原因は多岐にわたります。慢性的なストレス、食事の質の低下、腸内環境の悪化、重金属の蓄積、慢性感染症など、現代社会には炎症を引き起こす要因が数多く存在しています。

腸内環境の悪化と腸脳相関

「腸は第二の脳」と呼ばれるように、腸と脳は密接に連携しており、これを腸脳相関と呼びます。実際、体内のセロトニンの90%以上は、腸管のエンテロクロム親和性細胞で作られています。

腸内細菌が食物繊維を分解して作る短鎖脂肪酸は、このセロトニン合成を促進する重要な物質です。しかし、多くの現代人は食物繊維の摂取不足とストレスや抗生物質の使用により腸内環境が悪化しているため、リーキーガット(腸管透過性亢進)を起こしています。

リーキーガットでは、本来腸管を通過しないはずの有害物質が血液中に漏れ出し、全身に炎症を引き起こします。この炎症が脳にも及ぶと、先ほど説明したトリプトファン代謝の異常が起こり、うつ症状が悪化します。

副腎疲労とホルモンバランスの乱れ

慢性的なストレスにより副腎機能が低下する副腎疲労も、うつ病の重要な原因の一つです。副腎疲労では、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が低下し、代わりにアドレナリンが過剰に分泌されるようになります。

この状態では、タンパク質異化が亢進し、筋肉や腸粘膜が分解されやすくなります。その結果、神経伝達物質の材料となるアミノ酸が不足し、さらに腸粘膜の薄化により栄養吸収も低下してしまいます。また、アドレナリンの過剰分泌により血糖値が不安定になり、これが神経伝達物質のバランスをさらに悪化させる悪循環を生み出します。

重金属や毒素による神経系への直接的ダメージ

現代社会では、様々な有害物質に曝露される機会が増えています。特に水銀は、神経伝達物質の受容体に直接結合し、その機能を阻害することが知られています。

水銀による神経毒性では、突然の怒りやイライラ、原因不明のエネルギー切れ、薬やカウンセリングが効かないといった特徴的な症状が現れます。また、肝臓の解毒機能が低下すると、体内に毒素が蓄積し、脳神経に持続的なダメージを与えることになります。

水銀の主な暴露源は、大型魚(マグロ、キンメダイなど)、歯科のアマルガム(銀歯)、大気汚染などです。また、農薬、食品添加物、化学物質なども、長期的には神経系に悪影響を与える可能性があります。

遺伝的要因とメチレーション異常

近年注目されているのが、メチレーション異常とうつ病の関係です。メチレーションとは、メチル基(-CH3)を様々な物質に付加する反応で、神経伝達物質の合成・分解、DNA制御、解毒など、多くの生体反応に関与しています。

当院の臨床経験と海外の研究データから、うつ病患者は以下のメチレーションタイプに分類できることがわかっています。

低メチレーション型は全体の38%を占め、低セロトニン・低ドーパミンが特徴です。完璧主義で強迫的な傾向があり、SSRIなどの抗うつ薬が効果的な場合が多いタイプです。一方、高メチレーション型は20%を占め、高セロトニン・高ドーパミンの状態にあります。このタイプでは不安やパニック傾向が強く、SSRIで症状が悪化することがあります。

銅過剰型は17%を占め、95%以上が女性です。ドーパミンが低下し、ノルアドレナリンが上昇する特徴があり、PMSや産後うつと深く関連しています。ピロール異常型は15%を占め、ビタミンB6と亜鉛が慢性的に不足する体質により、セロトニンやGABAが不足し、気分変動が激しくなります。

残りの5%は重金属蓄積型で、脳神経の直接的ダメージにより神経伝達物質の機能が低下しています。

当院のアプローチ

当院では、これらの複雑な原因に対して、「治療ピラミッド」に基づいた段階的なアプローチを行います。最下層から順番に治療を進めることで、効果的かつ安全な改善を目指しています。

基盤の安定化:副腎・ミトコンドリア機能の回復

治療の第一段階では、体の基盤となる副腎とミトコンドリアの機能回復に焦点を当てます。

血糖値の不安定は、アドレナリンの過剰分泌を引き起こし、神経伝達物質のバランスを大きく崩してしまいます。そのため、まず食事指導により血糖値を安定させることから始めます。具体的には、精製糖質の制限、タンパク質の充実、食物繊維の増加、食事のタイミングの調整などを行います。必要に応じて、αリポ酸やクロムなどの血糖コントロールサプリメントも活用します。

副腎機能の評価には、唾液コルチゾール検査を用います。この検査により、一日のコルチゾール変動パターンを正確に把握し、個々の患者様に最適な治療計画を立てることができます。副腎機能の回復には、ビタミンC、ビタミンB群の補充に加え、リコリスやアシュワガンダなどのアダプトゲンハーブを活用します。

ミトコンドリア機能の活性化も重要です。神経伝達物質の合成には大量のエネルギー(ATP)が必要であり、ミトコンドリアの機能が低下していると、十分な神経伝達物質を作ることができません。CoQ10、マグネシウム、ビタミンB群などのミトコンドリアサポートサプリメントに加え、抗酸化サプリメントや適度な運動指導も行います。

腸内環境の改善:セロトニン産生の土台作り

第二段階では、腸内環境の改善に取り組みます。セロトニンの90%以上が腸で作られているため、腸内環境の改善は神経伝達物質バランスの正常化に直結します。

当院では、機能性医学で標準的に用いられる4Rプロトコールを採用しています。まず「Remove(除去)」では、病原菌、カンジダ、寄生虫などの有害微生物を除菌します。次に「Replace(補充)」で、消化酵素や胃酸の不足を補います。「Reinoculate(再接種)」では、適切なプロバイオティクスにより善玉菌を補充し、最後に「Repair(修復)」で、グルタミン、亜鉛、ビタミンAにより腸粘膜を修復します。

セロトニン活性化のための食事指導も重要です。水溶性食物繊維を豊富に含む食品(海藻類、きのこ類、根菜類など)の積極的摂取を推奨し、腸内細菌による短鎖脂肪酸の産生を促進します。また、発酵食品の適切な利用や、抗炎症作用のある食品の摂取も指導します。

デトックス治療:神経毒性物質の除去

第三段階では、蓄積した重金属や毒素の除去を行います。これらの有害物質は神経伝達物質の受容体機能を直接阻害するため、除去することで劇的な改善が期待できます。

デトックス治療は、3段階のプロトコールに基づいて慎重に進めます。まず「Phase 3」で排出経路の確保を行います。便通の改善、発汗の促進、適切な水分摂取により、体外への毒素排出ルートを整えます。次に「Phase 2」で毒素の抱合を行います。グルタチオン経路を活性化し、脂溶性の毒素を水溶性に変換して排出しやすくします。最後に「Phase 1」で毒素の活性化を調整します。CYP450酵素系のバランスを整え、毒素の代謝を最適化します。

デトックス治療は、副作用のリスクもあるため、事前の準備と慎重なモニタリングが不可欠です。患者様の解毒能力や毒素の蓄積量を詳細に評価し、個別化されたプロトコールで安全に進めていきます。

個別化された神経伝達物質サポート

最終段階では、詳細な検査結果に基づいて、個々の患者様に最適化された神経伝達物質サポートを行います。

有機酸検査により、ドーパミンやセロトニンの代謝産物を測定し、神経伝達物質の過剰または枯渇の傾向を把握します。血液検査では、銅・亜鉛比や好塩基球数を測定し、メチレーションの状態やヒスタミンレベルを評価します。必要に応じて、MTHFR、COMT、MAO-Aなどの遺伝子検査も行い、個々の代謝特性を詳細に分析します。

これらの検査結果に基づき、各患者様に最適化された栄養プロトコールを提供します。低メチレーション型にはSAMe、メチル葉酸、ビタミンB12を、高メチレーション型にはナイアシンやビタミンCを、銅過剰型には亜鉛の積極的補充を、ピロール異常型にはビタミンB6と亜鉛の高用量投与を行います。

神経伝達物質の直接サポートでは、バランスの取れた必須アミノ酸の補充から開始し、必要に応じてチロシンやトリプトファンの個別補充も検討します。ただし、これらのアミノ酸は相互に競合関係にあるため、長期間の単独使用は他の神経伝達物質の枯渇を招く可能性があります。そのため、定期的な評価と調整を行いながら、慎重に使用しています。

継続的なモニタリングと調整

治療効果の評価には、定期的な検査と症状の変化の詳細な記録が重要です。血液検査、有機酸検査、症状評価スケールなどを用いて、客観的に改善度を評価し、必要に応じてプロトコールを調整していきます。

最終的な目標は、サプリメントに依存しない、自然な神経伝達物質バランスの回復です。治療が進むにつれて、段階的にサプリメントを減量し、食事と生活習慣だけで健康を維持できる状態を目指します。

まとめ

うつ病は複雑で多面的な疾患ですが、神経伝達物質のバランスを整える栄養療法により、根本的な改善が期待できます。従来の対症療法とは異なり、栄養療法では「なぜ神経伝達物質のバランスが崩れたのか」という根本原因を徹底的に追求し、一人ひとりに最適化された治療を提供します。

薬物療法だけでは限界を感じている方、より根本的な治療をお求めの方は、ぜひ一度当院にご相談ください。神経伝達物質のバランスを整える栄養療法で、新しい可能性を見つけていただけることでしょう。

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