ニキビ

繰り返しできる頑固なニキビ。ニキビがなぜできるのか?と悩んでいる人は10代から大人まで男女問わず少なくありません。しかし、その本当の原因を9割の人は知りません。「もう治らない」と諦めていたニキビや肌荒れは、もしかしたら、治し方が間違っていたのかもしれません。何度も繰り返しできるニキビを根本から治すには、ニキビができる原因を詳しく知った上で、正しい対策をすることが重要です。
ここでは、ニキビの根本原因や具体的な対策・治療法について、解説します。
ニキビとは?
ニキビの正式名称は、「尋常性痤瘡(じんじょうせいざそう)」といいます。10代から大人まで男女問わず90%以上の方が経験する身近な肌トラブルであるため軽視されがちですが、皮膚の病気のひとつであり、慢性の炎症性疾患です。
単なる急性の細菌感染症ではなく、慢性の炎症性疾患であるため、抗生剤の治療のみでは、なかなか良くなりません。
炎症が持続・遷延すると、周囲の組織も破壊し、赤みや色素沈着が目立ったり、凹凸の瘢痕を残し、ニキビ跡になることもあります。
そのため、重症化する前に、早めに治すことがニキビ跡のないきれいな肌を保つためのポイントになります。

ニキビはなぜできる?
ニキビは、毛穴の中でも皮脂の分泌量が多い脂腺性毛包と呼ばれる部位で発生します。まず、毛穴の出口が塞がり、そこに皮脂が溜まってくると、コメド(白ニキビ)ができます。その後、毛穴の中でアクネ菌が増殖して炎症が起きると、赤ニキビや膿をもった黄ニキビに移行します。炎症がさらに悪化すると、炎症後の赤みが出たり、人によってはクレーター状の瘢痕やケロイド瘢痕を残し、ニキビ跡になります。

(マルホ株式会社 資料より)
ニキビとアクネ菌の関係
アクネ菌は皮膚の常在菌で、ニキビのない人にも存在します。アクネ菌は、空気のあるところでも生息できますが、基本的には酸素の少ないところを好みます(通性嫌気性菌)。また、皮脂を餌にして生息しています。そのため、酸素が少なく皮脂が多い毛穴は、アクネ菌にとって理想的な環境です。
アクネ菌は皮脂のトリグリセリドを分解してグリセリンと脂肪酸を作り出します。作り出されたグリセリンによって皮膚の保湿機能が高められ、プロピオン酸や乳酸などの脂肪酸によって、皮膚は弱酸性に保たれ、病原菌の繁殖を抑える役割を果たしています。そのため、アクネ菌は普段は、皮膚の保護機能の一つとしての役割を担っています。

しかし、毛穴が何らかの原因で塞がれてしまったとき、アクネ菌の存在が問題となります。
毛穴の出口が塞がれることにより、毛穴の中の酸素は減少します。さらに皮脂が排出できないため、毛穴の中でどんどんと溜まっていきます。この状態は、アクネ菌の成育に最適な環境であり、結果としてアクネ菌が過剰に増殖してしまいます。

増殖したアクネ菌は、キャンプファクターという毒素を産生します。このキャンプファクターという毒素は、細胞膜や組織の膜に穴を開ける作用があり、これによって皮膚内部で免疫反応が誘発されます。この免疫反応によって、様々な炎症性物質が放出され、炎症の連鎖反応が起こり、ニキビが発生します。
毛穴が詰まる3つの原因
ニキビが発生するきっかけは、毛穴が詰まることですが、その毛穴が詰まる原因は、大きく分けて3つあります。
1つ目は皮脂分泌が盛んになることです。皮脂腺が活発に働くことで、毛穴から皮脂が多く分泌され、その結果、毛穴の出口を塞いでしまいます。
2つ目は表皮細胞の過剰増殖です。毛穴が表皮を貫通している部分で最も細くなっている場所を毛包漏斗部といいます。この部位で表皮細胞が過剰に増殖すると、毛穴の出口が塞がれてしまいます。
3つ目は不適切な洗顔やスキンケア、化粧品などの使用によるものです。不十分な洗顔により皮脂が余分に残っていたり、化粧品などで物理的に毛穴に蓋をしてしまうと、それが毛穴づまりの原因になります。

ニキビの厄介なところは、一度炎症が起こると連鎖反応により、どんどんと悪化してしまうことです。炎症によって生じるサイトカインやタンパク分解酵素が皮脂の分泌をさらに促進します。さらに、増殖したアクネ菌が皮脂を分解することによって出てくる脂肪酸(特にオレイン酸など)が、表皮細胞の増殖を促したり、毛包漏斗部の炎症を増悪させ、結果的に毛穴詰まりが加速します。
このようにして、負のスパイラルに陥ると、ニキビは悪化一途をたどり、なかなか治らないのです。

保険診療のニキビ治療の問題点
一般的に保険診療では、毛穴の詰まり(コメド)を改善するために、角質層を薄くする作用のある「ディフェリンゲル(アダパレン)」や「ベピオゲル(過酸化ベンゾイル)」などが処方されます。これらの薬は角質を薄くして、毛穴の詰まりを改善させます。また、増殖してしまったアクネ菌に対しては、抗菌薬の内服あるいは外用を行うのが一般的な治療法です。
毛穴詰まりを改善させる薬剤が普及したことで、日本の保険診療も進歩してきましたが、保険診療で行われる治療は、毛穴が詰まってしまったことへの対処や、アクネ菌の増殖に対処するものが中心です。さらに、コメド治療で使われる外用薬には刺激性があり、乾燥・赤み・かぶれなどの副作用により治療の継続が困難となる方もいます。
ニキビを根本的に治療するためには、これらの対処法では不十分であり、より上流にある根本原因にアプローチする方が、再発も少なく、効果的と考えられます。
特に、皮脂分泌の亢進や、表皮細胞の過剰増殖へのアプローチについては、内側からのケアが重要となります。
ニキビの治療の真のターゲットはmTOR経路
皮脂分泌の亢進や、表皮細胞の過剰増殖の原因には、大きく分けて3つの要因があります。
1つ目は「ストレス」です。ストレスは、皮脂分泌を促進し、ニキビを悪化させます。
2つ目は「食事」です。特に西洋食(肉類、小麦製品、乳製品、砂糖を多く含む食事)は皮脂分泌を増やし、ニキビを悪化させる原因となります。
3つ目は「内分泌因子(ホルモン)の影響」です。特に男性ホルモンや成長ホルモンなどが皮脂の分泌を増やし、表皮細胞の増殖を促進させます。
これらの要因は、一見別々のものに見えますが、細胞レベルで見ると、すべてが「mTOR(エムトア)」という経路を活性化させるという共通の特徴があります。そのため、ニキビ治療の標的は、このmTOR経路を適切に制御することにあります。

mTOR経路は、細胞の成長や代謝を調整するシグナル伝達経路で、細胞の生存や成長に関わる多くのプロセスを制御しています。
mTORは、Complex 1(mTORC1) と Complex 2(mTORC2) の2つの異なる複合体を形成しており、このうちmTORC1 は細胞の栄養状態や外部刺激に応答してタンパク質合成や脂質の合成、細胞の成長・増殖に関与するシグナルを伝達しています。
皮膚はタンパク質でできており、皮脂は脂質でできているため、この経路が過剰に活性化されると、結果として表皮細胞の過剰増殖や皮脂分泌の亢進が生じることになります。
mTOR経路を活性化させるもの
では、この経路を過剰に活性化させるスイッチになるものにはどんなものがあるのでしょうか?
mTOR経路の活性化を引き起こす要因としては、グルコース(糖)、インスリン、IGF-1(インスリン様成長因子)、アミノ酸(特にロイシン)、成長因子、炎症などが挙げられます。
これらは、西洋食に含まれる糖質や乳製品、肉類、小麦製品に多く含まれています。そのため、これらの食品を頻繁に摂取する人は、mTOR経路が過剰に活性化されやすく、結果としてニキビができやすくなります[1]。

日本のような西洋化社会では、ニキビの罹患率は、思春期で79~95%、25歳以上で40~54%を占める一方で、非西洋化集団であるパプアニューギニアのキタバン諸島民族1200人と、パラグアイのアチェ狩猟採集民族115人を調べたところ、驚くべきことに、ニキビに罹患している人は誰一人いなかった、という報告もあります[2]。
これらの疫学調査からみても、西洋型の食事とニキビとの因果関係は明らかです。
mTOR経路を阻害するもの
mTOR経路を阻害する栄養素も存在します。
代表的なものとして、ビタミンA、ビタミンB5(パントテン酸)、ケルセチン、クルクミン、ザクロエキス、緑茶に含まれるEGCG、レスベラトロール、カフェインなどが挙げられます。ビタミンAやビタミンB5は、mTOR経路を制御するために重要な役割を果たし、ニキビの治療に有効であることが知られています。
ビタミンAとニキビ治療
ビタミンAの誘導体である「イソトレチノイン」は、特に重症のニキビ患者に対して有効な治療法の1つです。日本では保険適用外の薬ですが、欧米では20年以上前から使用されており、長期にわたって臨床的な実績がある治療薬です。
イソトレチノインは、ビタミンAの活性型であり、非常に効果的ですが、胎児に対する影響があるため、使用中や使用前後に避妊が必要です。妊娠を避けるために、アメリカでは毎回妊娠検査が行われ、陰性であることを確認してから処方されます。
ビタミンAの代謝について簡単に説明すると、食事から摂取されたビタミンAは小腸から吸収され、肝臓に貯蔵されます。そして、必要に応じてレチノールに変換され、血液を通じて体内の組織に運ばれます。レチノールは酸化されてレチナールに変換され、さらに酸化されることでレチノイン酸になります。レチノイン酸は、細胞の分化や増殖を調整する強力な活性を持ち、特にニキビ治療において効果を発揮します。

天然型のビタミンAサプリメントは、レチノールの形で提供されているものが多く、天然型のビタミンAは過剰症のリスクが低いとされています。一方で、イソトレチノインのような合成のビタミンAは、還元反応がないため自由に変換されず、過剰症のリスクが高く、使用には注意が必要です。
ニキビの治療として、ビタミンAを補充する際は、天然型のビタミンAを使う方がより安全性は高いと言えます。
パントテン酸とニキビ治療
パントテン酸(ビタミンB5)は、脂肪の代謝に関与し、皮脂の分泌を抑制する効果があります。
ニキビ患者100人に対して、1日10gのパントテン酸を4回に分けて内服し、さらにパントテン酸を含むクリームを1日4〜6回塗布したところ、治療開始後1〜2日以内に皮脂分泌が著しく減少し、12週間以内にニキビの数が減少したという報告があります。さらに、パントテン酸の摂取によって、毛穴のサイズが縮小し、肌の滑らかさが向上するという美肌効果も確認されています[3]。
他にも、軽度から中等度のニキビ患者48人を対象にパントテン酸を含む補助食品を摂取したグループと、摂取しないグループに分けて観察したところ、パントテン酸を摂取したグループでは、12週間後にニキビの数が優位に減少したという報告もあります[4]。
このように、食生活の改善や栄養素用いたアプローチによって、ニキビの効果的な改善が期待できることがわかります。
その他に、ニキビに対して根本原因からアプローチする上で、腸内環境の改善は欠かせません。
ここからは、ニキビと腸内環境について、説明していきます。
ニキビと腸内環境
mTOR経路を活性化させ、ニキビが悪化する原因には、食事以外に「炎症」も関与しています。特に隠れた慢性炎症があると、ニキビを悪化させる要因となります。
隠れた慢性炎症の中でも、特に多くの方が抱えている問題が、消化管(腸管)の炎症です。
腸内細菌は「gut-skin axis(腸皮膚相関)」と呼ばれる腸と皮膚をつなぐ相互方向的な経路を通じて皮膚の健康に関与しています。この経路を介して腸内細菌は皮膚へシグナルを送ることで炎症や皮脂の産生に影響を与えており、皮膚疾患の発症にも関与しています[5]。
ニキビ患者と健常者の腸内細菌叢を比較したところ、ニキビ患者は腸内細菌の多様性が減少しており、特に腸内の細菌群のパターンが西洋型の食生活をしている人によく見られる「Firmicutes門(F)」が多く、「Bacteroidetes門(B)」が少ない、つまりF/B比率が大きくなる傾向にあると報告されています[6]。これにより、ニキビ患者の腸内環境の悪化が、ニキビ発生に関与している可能性が示唆されています。
さらに、消化器機能障害(便秘や腹部膨満感など)と皮膚疾患との関連を調べた大規模なアンケート調査では、便秘や消化器系の問題を抱える人々は、ニキビや脂漏性皮膚炎、男性型脱毛症などの皮膚疾患を有する割合が高いことが明らかになっています[7]。
ピロリ菌、カンジダ感染とニキビ
ニキビの一因として、ピロリ菌の感染が影響していることもあります。重症なニキビ患者では、ピロリ菌の抗原・抗体のレベルが高いことが報告されています。さらに、ピロリ菌に感染すると、ニキビが重症化し、罹患期間が長引く可能性も示されています[8]。

有機酸検査やGI-MAPを用いて、36人のニキビ患者の腸内環境を検査した結果、ピロリ菌やカンジダ菌、寄生虫の感染率が一般的な感染率よりもはるかに高かったという報告もあります[9]。例えば、カンジダ菌は通常25%程度の感染率であるのに対し、ニキビ患者では94%が感染しており、ピロリ菌の感染率も通常65%程度なのに対して、ニキビ患者では92%であったことが確認されています。このような結果から、腸内環境の悪化がニキビの発生や悪化に密接に関係していることが示されています。
そのため、検査でこれらの病原菌が陽性となった場合には、除菌治療をすることをおすすめします。
当院で行うニキビ治療
これまで解説してきた内容を踏まえると、ニキビ治療には食生活の改善や、除菌を含めた腸内環境改善のアプローチが非常に重要であることが分かります。そして、体の内側から皮膚をケアすることが根本的な解決策となります。慢性的なニキビや肌荒れに悩んでいて、皮膚科を受診しても大きな改善が見られなかった方は、体の内側からアプローチする治療法もぜひ試してみてください。
当院では、ニキビの根本治療を目指し、薬だけの治療に頼らず、身体の内外ケアを取り入れ継続的にフォローする治療コースを提供しています。血液検査や腸内環境検査の結果をもとに、栄養指導やサプリメント処方を行うことに加え、光治療やピーリング治療などの美容施術も併せて行い、より早く理想の肌状態へ近づけるためのコースとなっています。
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