低血糖症について|症状・原因・検査・食事での対策

低血糖症とは?症状とホルモンの関係
低血糖症とは、血液中のぶどう糖(血糖値)が異常に低下した状態を指します。
一般的には 血糖値が70mg/dL以下 になると低血糖症と診断されます。
血糖値が下がると、次のように幅広い症状が出ることがあります。
- 軽度:空腹感、だるさ、冷え、肩こり、頭痛などの不定愁訴
- 中等度:手汗、動悸、手の震え、息切れ、不安感、焦り、イライラ、神経過敏
- 重度:けいれん、意識消失、昏睡状態

これらの症状には ホルモンバランス が深く関わっています。
血糖値を下げるホルモンは「インスリン」だけですが、血糖値を上げるホルモンは複数存在します。代表的なのが コルチゾール・アドレナリン・ノルアドレナリン です。
実は、人間は進化の過程で「飢餓」と闘い続けてきました。そのため、体は血糖値を上げる仕組みをいくつも備えており、血糖値を下げる仕組み(インスリン)は一つしかありません。

時間帯によっても役割が分かれており、
- 朝は「コルチゾール」
- 夜中は「成長ホルモン」
- 緊急時には「アドレナリン」「ノルアドレナリン」
が血糖値を支えています。特に危険なほど低血糖になったときは、大量のアドレナリンやノルアドレナリンが分泌され、手汗・動悸・震え・強い不安感などの症状を引き起こします。このため 低血糖症の症状=ホルモンの過剰反応 と言い換えることもできます。
また、パニック発作の一部も、ノルアドレナリン過剰による「恐怖感」が原因となるケースがあると考えられています。
低血糖の診断
低血糖症とは、一般的に 血糖値が70mg/dL以下 の状態を指します。
しかし「健康診断で血糖値が90mg/dLだったから自分は大丈夫」とは言い切れません。
なぜなら血糖値は日常生活のちょっとした刺激でも簡単に変動するからです。
例えば空腹時に測定して90mg/dLであっても、それはあくまで「その瞬間の値」にすぎません。
実際、食事をしていなくても、緊張した場面──大勢の前で話す、試験を受けるといった状況では、交感神経が優位になり血糖値は上昇することがあります。

HbA1cだけでは分からない「隠れ低血糖」
1〜2か月の平均血糖値を反映する ヘモグロビンA1c(HbA1c) も、低血糖の診断には限界があります。
日常的に低血糖を繰り返していても、食後に一時的な高血糖があると相殺されてしまい、一見「正常値」に見えることがあるのです。
つまり、HbA1cが正常範囲でも低血糖症状がある人は少なくありません。

精密な検査「5時間糖負荷試験」
低血糖を詳しく調べる検査のひとつに 5時間糖負荷試験 があります。
これは、75gのブドウ糖液を一気に飲み、
- 15分後
- その後30分ごと
に血糖値・インスリン値を測定していく検査です。場合によっては体温も同時にチェックします。
「5時間糖負荷試験」による低血糖症の診断基準
★血糖値の上昇:糖負荷後、血糖値は通常30分~60分で最高点に達し、空腹時の1.5倍程度(40~50 mg/dL)に上昇する⇒血糖値の上昇率が1.5倍以上は食後高血糖
★血糖値の下降:通常血糖はなだらかに下降し、その最低値は、空腹時血糖の80~90%程度に収まる⇒血糖値の下降率が80%以下では低血糖
診断基準の目安
- 血糖値の上昇:糖負荷後30〜60分で空腹時の1.5倍(+40〜50mg/dL)以上 → 食後高血糖の可能性
- 血糖値の下降:その後なだらかに下がり、最低値が空腹時の80〜90%に収まるのが正常。80%を下回ると低血糖と判断されます。
ただし、この検査はあえて低血糖を起こさせるため、体への負担やリスクもあります。そのため、必ず専門医の監督下で行う必要があります。独自で行うのは危険です。
検査が受けられる場所と注意点
「5時間糖負荷試験」は保険適用外で、栄養療法を専門とする一部のクリニックでのみ行われています。
糖尿病患者さんの場合は、より短時間の「2時間糖負荷試験」が保険適用で実施されます。
当院での診断アプローチ
京橋ウェルネスクリニックでは、患者さんへの負担を考慮し、原則として5時間糖負荷試験は行っていません。
その代わりに:
- 詳細な問診(症状の経過を丁寧にヒアリング)
- 血液検査(低中性脂肪や交感神経の緊張度合いを確認)
- 簡易型血糖測定器「フリースタイルリブレ(FreeStyle Libre)」を用いたモニタリング
などを組み合わせて低血糖の有無を判断しています。

リブレは血糖そのものではなく間質液の値を測定しますが、食後高血糖や夜間低血糖など「血糖の変動パターン」を把握するのに非常に有効です。
低血糖を起こしやすい人の特徴
低血糖を頻繁に起こす方の中には、「しっかり食べているのにエネルギー不足になる」というケースが少なくありません。
これは、食事から得たエネルギーをうまく利用できない「代謝の不調」が背景にあります。

エネルギーを作るには「3大栄養素+補酵素」が必要
体を動かすエネルギー源は 糖質・脂質・たんぱく質 の3大栄養素です。
しかし、食べたものをきちんと消化吸収できなければ、栄養が体内でエネルギーに変わらずエネルギー切れに陥ります。
さらに、この3大栄養素をエネルギーに変換するには ビタミンやミネラル が欠かせません。特にビタミンB群は代謝の要であり、腸内環境が悪化するとこの産生が減少し、低血糖のリスクを高めます。
筋肉と肝臓の働きがカギ
食後に摂ったブドウ糖は「グリコーゲン」として肝臓や筋肉に蓄えられます。血糖値が下がると、グリコーゲンが分解されエネルギー源として利用される仕組みです。
そのため、
- 筋肉量が少ない女性
- 脂肪肝などで肝機能が落ちている人
はグリコーゲンを十分に貯蔵できず、エネルギー不足から低血糖を起こしやすくなります。

「糖新生」が働かない体質
私たちの体は、空腹時や睡眠中でも 糖新生 という仕組みでアミノ酸や中性脂肪からブドウ糖を作り出し、血糖を安定させています。
この糖新生を担う酵素が「AST」「ALT」です。一般的には数値が高い場合に肝障害を疑いますが、低血糖や副腎疲労の患者さんでは逆に AST・ALTが非常に低い ことも少なくありません。
その理由は、これらの酵素が ビタミンB6を材料に作られている ため。B6不足により糖新生が働かず、低血糖体質に傾いてしまうのです。

まとめ:低血糖を起こしやすい体質チェック
- 胃腸機能が低下し、栄養を消化吸収できていない
- 腸内環境の悪化でビタミンB群の産生が不足
- 筋肉量が少ない
- 肝機能が弱い(脂肪肝だけでなく低栄養・低たんぱく質状態も含む)
これらが重なると「低血糖体質」になりやすく、慢性的な疲労や集中力低下、不調の温床になります。
胃腸機能の低下とストレスが招く低血糖
では、なぜ「副腎疲労による低血糖」を起こしやすい人が多いのでしょうか?
大きな要因のひとつが 胃腸機能の低下 です。
- 加工食品や外食が多い
- 小麦製品の摂りすぎ
- 腸内細菌を育てる食物繊維の不足
こうした食生活は腸内環境を乱し、栄養吸収力を弱めます。
特にストレスは唾液や胃酸の分泌を減らし、消化不良を引き起こします。結果として、たんぱく質や糖質が十分に消化されず、腸内で異常発酵を起こして悪玉菌のエサとなり、腸を荒らしてしまいます。
さらに、ミネラルの吸収は添加物の多い食生活で壊滅的に低下。これが副腎や肝臓の働きを落とし、低血糖を悪化させます。
ストレスによる消耗の恐ろしさ
ストレスは胃腸への影響だけでなく、直接的に低血糖を招く要因 でもあります。
強いストレスを受けると、体は生理的な防御反応として体たんぱくや中性脂肪を分解し、エネルギーを作り出そうとします。言い換えれば「走ってもいないのに、常にマラソンをしているような状態」です。
例えば、マラソン選手が食べても太らないのは、それ以上に消耗しているから。日常生活の中でも、人間関係や仕事・家事・育児・介護といったストレスが続けば、同じように「食べても追いつかない」消耗が起こります。

エネルギーがだだ洩れしている副腎疲労の人たち
特に副腎疲労の患者さんは、体のエネルギーが常に漏れ続けているような状態です。
コーヒーやエナジードリンクで無理やり動けるように見えても、それは一時的に交感神経を刺激しているだけ。本当は体は悲鳴をあげています。
そのサインに気づかず頑張り続けてしまうと、低血糖はますます悪化し、悪循環に陥ってしまいます。
低血糖の治療 ― 緊急対応と根本改善の違い
一般的な病院での治療(緊急時対応)
低血糖の際に、命にかかわるような急激な血糖低下が起きた場合は ブドウ糖点滴 が行われます。
糖尿病患者さんでは、インスリン注射や血糖降下薬が原因で低血糖を起こすことがあり、この場合はブドウ糖を含む飴やジュースを摂ったり、点滴で血糖をすぐに上げる対応をします。
ただし、これは 糖尿病や薬剤使用が関与している緊急時の治療 であり、一般的な低血糖体質の方が「ちょっと疲れたから」と頻繁にブドウ糖の飴を摂るのはおすすめできません。
一時的に血糖は上がりますが、すぐにまた下がってしまい、低血糖の悪循環を招くからです。
栄養外来での治療(体質改善アプローチ)
当院では「低血糖体質そのものを改善する」ことを目的にしています。
そのために、患者さんごとに以下のようなアプローチを行います。
- フリースタイルリブレ などの簡易血糖モニタリングを使用し、食事後や夜間の血糖変動をチェック
- そのデータをもとに、食事内容・補食(間食)のタイミング・量 を細かく指導
- ビタミン・ミネラル・たんぱく質などの不足を補い、血糖安定に必要な栄養状態を整える
- 腸内環境・肝機能・副腎機能を総合的に評価し、根本から代謝を改善
➤ つまり、 「即効性のブドウ糖」ではなく「血糖が安定しやすい体をつくること」 が治療の中心です。
⚠️ 注意
緊急時の強い低血糖では、必ず医師の指示に従いブドウ糖を使用してください。
ここで紹介したのは「日常的な低血糖体質」の改善に向けた取り組みであり、急を要するケースとは異なります。
低血糖対策の食事 ― タイプ別のアプローチ
低血糖は一見同じように見えても、原因によってアプローチが異なります。代表的なのは 「反応性の低血糖」 と 「副腎疲労による低血糖」 の2つです。
反応性の低血糖
食後に血糖値が急上昇した後、インスリンが過剰に分泌されることで、逆に血糖値が急降下してしまうタイプです。
特に「甘いものが好き」「早食い」「炭水化物に偏った食事」をする方に多くみられます。
改善ポイントは「食べ方」と「主食の選び方」です。
甘いもの・砂糖の多い食品を控える
早食いをやめて、よく噛む
野菜・海藻・きのこ・タンパク質を先に食べる
白米よりも玄米・雑穀米など精製度の低い炭水化物を適量摂る
※「適量」は筋肉量や活動量によって個人差があります。
副腎疲労による低血糖
一方で、副腎疲労が背景にある場合は 食事に関係なく常に低血糖状態 が続くのが特徴です。夜間や早朝に症状が出やすく、栄養不足やストレス、ホルモンの枯渇が関与しています。
改善の柱は「栄養状態の底上げ」と「代謝機能の回復」です。
ミトコンドリア機能を高める(ATP産生を支える)
腸内環境を整え、栄養吸収と解毒をサポート
海藻・きのこ・雑穀・野菜など食物繊維を増やす
小麦製品や乳製品は控えめにする
ミトコンドリアが安定するまでは、こまめに補食(間食)をとる
さらに「肝臓の働き」も低血糖に直結します。肝臓では「糖新生」と呼ばれるシステムが働き、アミノ酸や脂質からブドウ糖を作り出しています。
タンパク質不足やビタミンB6不足があるとこの働きが低下し、夜間や空腹時に低血糖を起こしやすくなります。

肝臓を守るためには、腸内環境の改善が必須です。腸が乱れると毒素が肝臓に流れ込み、さらに代謝を妨げるからです。
もちろん、お酒や食品添加物の過剰摂取にも注意が必要です。
低血糖の診断で大切なポイント
低血糖症は、単に「血糖値が70mg/dL以下かどうか」だけで判断できるものではありません。
- 健康診断の一度きりの数値やHbA1cだけでは「隠れ低血糖」を見逃すことがある
- 症状(手汗・動悸・不安感・頭痛・集中力低下など)と数値の両面からの評価が不可欠
- 詳細な評価には「5時間糖負荷試験」などの特殊検査があるが、負担が大きいため専門医の判断が必要
- 当院では、問診・血液検査・フリースタイルリブレによる血糖モニタリング を組み合わせて、安全かつ実生活に即した診断を行っている
つまり、低血糖の診断は「数値だけ」でなく「症状・変動パターン・生活背景」を総合的に見ることが鍵です。
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※本記事の内容は、医学的治療に置き換わるものではありません。個人的にお試しになり健康被害が生じても、当院では一切責任を負えませんのでご了承ください。病態の改善に必要な食事や治療法はひとりひとり異なります。京橋ウェルネスクリニックでは、詳細な診察・検査を行った上で、個別に最適なお食事・生活改善プランをご提案しています。