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コラム

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過敏性腸症候群は発酵を誘発しない低FODMAP食が功をなす

はじめに

過敏性腸症候群(IBS)は、下痢や便秘を繰り返したり、お腹の張り(腹部膨満感)が続いたりする病態です。国内でも推定人口の10〜15%が悩んでいるとされ、日常生活や仕事に大きな影響を及ぼしています。病院で検査を受けても器質的な異常は見つからず、原因不明とされてしまうことが多いのも特徴です。「腸活」のブームでヨーグルトや食物繊維を積極的に摂ったのに、かえってお腹の調子が悪くなった──そんな経験をお持ちの方も少なくありません。
実はIBSの人にとって、一般的に「腸に良い」とされる食材が症状を悪化させている場合があるのです。そのカギとなるのが「FODMAP」と呼ばれる成分です。

低FODMAP食とは

FODMAP食とはオリゴ糖、二糖類、単糖類およびポリオールの頭文字をとっています。

Fermentable Oligosaccharides→発酵可能なオリゴ糖
Disaccharides→二糖類
Monosaccharides→単糖類
And Polyols→およびポリオール

これらは小腸で吸収されにくく、大腸で細菌により発酵されやすいという特徴があります。腸にガスや水分をため込みやすいため、IBSの人にとっては症状悪化の要因となるのです。

そこで登場したのが「低FODMAP食」。これらを減らすことで腸の負担を軽くし、症状を和らげることを目的とした食事法です。オーストラリア・モナッシュ大学を中心に研究が進められ、現在は欧州を中心に広く導入されています。

FODMAPs alter symptoms and the metabolome of patients with IBS: a randomised controlled trial
「FODMAPは、IBS患者の症状とメタボローム(代謝産物)を変える」

低FODMAP食を3週間行った研究

オーストラリアで行われたランダム化比較試験(RCT)では、IBS患者37人を「低FODMAP食群」と「高FODMAP食群」に分けて比較しました。その結果、低FODMAP群ではIBSの重症度スコア(IBS-SSS)が有意に改善(p<0.001)。一方、高FODMAP群では改善は認められませんでした。

つまり、「健康に良いはず」と思って食べていた発酵食品や食物繊維が、IBSの人には逆効果になる可能性があるということです。


ご存じの通り二糖類・単糖類はカンジダ菌の栄養源ですし、悪玉菌を増やしてしまうのは当然ですが、低FODMAP食の概念は、発酵を誘発する食材を減らす食事法です。



ぶどう糖や果糖は、酵母(カンジダ)やバクテリアによって、アルコール発酵されます。お酒を造る時、米に含まれる糖質が酵母によってアルコールが作られますよね。

あれです。

アルコール発酵(エタノールと二酸化炭素に分解)することでガスが発生するのです。このガスは過敏性腸症候群の人にとって大変辛い症状として悪化します。

しかし、オリゴ糖はプレバイオティクスとして本来は乳酸発酵(乳酸菌やビフィズス菌が腸内の有益な微生物を作ること)の材料となるはずです。

過敏性腸症候群の人はオリゴ糖が良くないのはなぜ?

例えば、果糖やブドウ糖は酵母や腸内細菌によってアルコール発酵されます。その過程でガス(二酸化炭素)が発生し、IBS患者さんでは膨満感や痛みを引き起こします。

また、本来プレバイオティクスとして有益とされるオリゴ糖も、IBSの人では腸内細菌が過剰に発酵を起こし、水分を引き込みすぎるため下痢や腹部不快感につながります。

つまり「良い菌を増やせば良い」と単純にはいかず、「腸が過敏な人にとっては発酵そのものが負担になる」ことがあるのです。



なんか腸内フローラは人間界と似ている気がしませんか?

主張が強い協調性のない人達が集まりすぎると、まとまりがなくなり喧嘩が勃発するかもしれません。ある程度調和のとれる人達が多い集団だとうまくいく事があるような気がしますが、それに近い感じがします。

低FODMAP食で控えたい食品とその理由

ここからは具体的に、低FODMAP食で注意すべき食品と、その理由を解説します。ポイントは「ゼロにする」のではなく、「控えて腸に負担を減らす」ことです。

① 単糖類・二糖類の多い食材

果物全般、砂糖(甘い物)、ジュース、アガベシロップ、はちみつ、乳糖を含む牛乳・ヨーグルトなど。
➤ これらは腸内で吸収されにくく、発酵のエサになってガスや腹部膨満を引き起こします。

代替例
・乳糖が少ない「無乳糖ミルク」「豆乳」
・果物は「バナナ・ブルーベリー」など比較的FODMAPが少ない種類を少量から

② オリゴ糖(発酵性の食物繊維)

甘味料のオリゴ糖、大豆、小豆、おくら、ごぼう、らっきょう、玉ねぎ、にんにくなど。
➤ 善玉菌のエサになる一方で、IBS患者では過発酵や浸透圧の上昇で下痢や腹部不快感を悪化させます。

代替例
・豆類を減らし、たんぱく質は「魚・鶏肉」から摂取
・調味に玉ねぎ・にんにくを使わず「ねぎの青い部分」「ハーブ」で香りづけ

③ 発酵食品

納豆、漬物、キムチ、麹、味噌、チーズ、ヨーグルトなど。
➤ 日本では「体に良い」とされる発酵食品も、IBSの方ではガスの増加や腹痛を招くことがあります。

代替例
・発酵食品を一時的に控え、腸内が安定してきたら少量ずつ再導入
・発酵食品の代わりに「未発酵の野菜・海藻」で腸に優しい食物繊維を摂る

④ ポリオール(糖アルコール)

ソルビトール(ソルビット)、マンニトール(マンニット)、キシリトールなど。

  • ソルビトール:甘納豆、菓子類、ジュース、乳酸飲料、佃煮など。過剰摂取で下痢を誘発。
  • マンニトール:海藻やきのこ由来。ガムや飴、ふりかけに添加。
  • キシリトール:イチゴやプラムなど自然界にも存在。虫歯予防効果が知られる一方、消化器に負担。

➤ IBSの方では少量でもお腹が張る原因になりやすいため注意が必要です。

代替例
・甘味料は「ステビア」「少量のメープルシロップ」など、比較的消化負担の少ないものを使用

実践のポイント

  • すべてを一気にやめる必要はない → まずは数週間「控える」ことから始める
  • 代替食材を取り入れる → 食事の満足感を保ちながら負担を減らす
  • 単一食材を大量摂取しない → 「良い食品」でも摂りすぎは逆効果

腸は人それぞれ反応が違います。低FODMAP食はあくまで「試して合うかどうか」を見極めるツールであり、完全除去ではなく「調整」が大切です。

低FODMAP食のやり方

①~④の食材を摂ってはいけないのではなく、減らしていくことが低FODMAP食です。もしFODMAP食材をゼロにしようとすると本当に食べるものがなくなり、栄養失調になってしまいます。
まず①~④の食材を3週間控えます。そこで過敏性腸症候群の症状が楽になれば、①~④の食材を項目(単純糖質・オリゴ糖・発酵食品・糖アルコール)ごとに再開してみて何に反応するのかを調べます。
また、①~④の食材を3週間控えて過敏性腸症候群の症状に何の変化もなければ他のところに原因があるのかもしれません。しっかりと専門の医療機関で検査をすることをおすすめします。

病態によって発酵食品を摂るか摂らないかを見分ける


日本では「発酵食品=健康によい」という意識が強くあります。確かに多くの人にはメリットがありますが、IBSの患者さんにとっては発酵食品が悪化要因になり得る点は見落とされがちです。万人に合う食事法は存在しないため、自分の体調と向き合うことが第一歩になります。

重大な疾患が見逃されないためにも検査をしましょう

今まで、腸に良いとされる食材を沢山摂られてきていても、繰り返す便秘や下痢、腹部膨満感が治らない人は間違った食事が原因かもしれません。
しかし、過敏性腸症候群と診断されていても「セリアック病」などの病気が背景にあるかもしれませんので、独自で安易に判断せず、専門の医療機関にかかって器質的異常がないかの検査やセリアック病の検査なども行うことをおすすめします。
勿論食事ではなく、ストレスが原因で過敏性腸症候群となるケースもかなり多いので、ストレスの対処法を見つける必要があるかと思います。

万人に合う食事法はありません。過敏性腸症候群でお悩みの方にとって、この記事が何か一つでもお役に立てることがありましたら幸いです。


まとめ

過敏性腸症候群(IBS)は「腸に良いはずの食事」でかえって悪化してしまうケースがある、というのが大きなポイントです。
特にオリゴ糖や発酵食品などがガスを発生させ、腹部膨満や下痢・便秘を助長することがあり、低FODMAP食 が一つの有効な選択肢として注目されています。

ただし、IBSの背景には「セリアック病」や「小麦アレルギー」などの重大な疾患が隠れている場合もあり、自己流の食事制限だけで判断するのは危険です。
また、ストレスや自律神経の乱れも大きな要因となるため、食事+生活習慣+心身のケアを総合的に見直すことが根本改善には欠かせません。

「腸に良い」と言われる食材が、すべての人にとって良いわけではありません。大切なのは 自分の体質に合った食事法 を見極めることです。

 過敏性腸症候群の症状でお悩みの方へ
京橋ウェルネスクリニックでは、低FODMAP食をはじめとした食事アプローチに加え、腸内環境検査やストレス評価を組み合わせたオーダーメイドの治療をご提案しています。

 ・何度も繰り返す下痢や便秘で悩んでいる
・発酵食品やサプリでかえって体調が悪化している
・検査では異常なしと言われたけれど症状が続いている

こうした方は、ぜひ一度ご相談ください。あなたの体質に合わせた「腸に優しい食事法」を一緒に探していきましょう。

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<参考文献>:
●食品添加物 毒性判定事典 渡辺雄二著
●FODMAPs alter symptoms and the metabolome of patients with IBS: a randomised controlled trial
「FODMAPは、IBS患者の症状とメタボローム(代謝産物)を変える」
 

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