ADHDの薬物治療と栄養療法
重症のADHDは、生活を壊します。衝動性で人間関係が壊れ、金銭面でも問題が出る。遅刻と忘れ物で信用を失う。学校に行けない、仕事が続かない。
そういう人にコンサータ、ストラテラ、インチュニブが効くと、登校できる、就労できる、関係を維持できる、というところまで戻ります。社会的にも臨床的にも、この価値は非常に高いのです。
ただし、一部の人にはうまくいかない、かえってイライラが募るなどの問題が出ます。
以下はそれらの原因と栄養による対策についての話です。
🔬 ドーパミンもノルアドレナリンも、測っていない
ADHDでは、前頭前野(おでこの奥にある、注意や段取り、我慢をつかさどる領域)のドーパミン(DA、やる気や集中に関わる物質)とノルアドレナリン(NE、覚醒や注意に関わる物質)の調節がうまくいっていない。これが病態の一つと考えられています。
ところが臨床の現場では、脳内のDAやNEを直接測ってから治療を始めるわけではありません。
実際には、症状から病態を推測し薬を出します。
効き方と副作用を見て用量を調節します。
いわば、治療しながら診断していくやり方です。
合理的で効果の裏づけもありますが、一人ひとりの神経伝達物質の状態そのものを見ているわけではありません。
また、神経伝達物質を測っていないので、狙って調整することはできません。
⚖️ DAとNEのバランスが重要です
コンサータ(メチルフェニデート)は、主にDAとNEのトランスポーター(回収ポンプ)をふさぐ薬です。
神経の隙間に出たDA・NEをより長く働かせます。
ストラテラ(アトモキセチン)は、主にNEの回収ポンプ(NET)をふさぎます。ただし前頭前野ではこのNETがDAの回収も兼ねているため、結果としてこの領域ではDAとNEの両方が増えるのです。実際、動物実験では前頭前野でNEもDAも約3倍に増える一方、線条体や側坐核といった別の場所ではDAが増えません。前頭前野にはDA専用の回収ポンプ(DAT)が少ないからです。
ここで大事な点は、「DAもNEも、多ければ多いほどいいわけではない」ということです。
前頭前野の働きとカテコールアミン(DAとNEの総称)の量は、逆U字の関係にあります。
少なすぎても認知機能は落ちるし、多すぎてもやはり落ちるのです。

やっかいなのは、患者ごとにDAとNEの状態が同じとは限らないことです。理屈のうえでは、
- DA↓・NE↓
- DA↓・NE↑
- DA↑・NE↓
- DA↑・NE↑
という違うパターンがありえます。
だから、片方を適正域に持っていこうとするともう一方が高すぎてしまう、ということがありうるのです。
DBH酵素と栄養
このDAとNEのアンバランスを説明するのが、DAをNEに変える酵素、ドーパミンβヒドロキシラーゼ(DBH)です。
DBHの働きが弱ければDAからNEへの変換が滞るので、DAが増えてNEが不足します。
逆に働きが強ければ、変換が進みすぎて、DAが減ってNEが過剰になります。

この酵素を動かす要素は2つあります。
一つは遺伝です。
DBH酵素の遺伝的多型(rs1611115)は、酵素活性に大きく影響します。
もう一つは栄養です。
DBHの酵素反応には銅とビタミンCが必要で、これらの栄養の過不足が多く影響しうるのです。
さらに、腸内のClostridia菌がDBHをじゃまする、という意見もあります。
当院では多くの患者さんでドーパミン、エピネフリン、クロストリジウムや銅の測定を行なっています。
🏭 カテコラミンの材料を補給する
栄養療法のもう一つの役目は、カテコラミンの材料を補給することです。
それらが作られる経路は以下の通りです。
チロシン(アミノ酸)
↓(TH:鉄とBH4が必要)
L-DOPA
↓(AADC:ビタミンB6が必要)
ドーパミン
↓(DBH:銅とビタミンCが必要)
ノルアドレナリン
ここにはアミノ酸だけでなく、鉄、B6、葉酸、B12、BH4、銅、ビタミンCといった複数の栄養と代謝の要素が関わります。
⚡ マグネシウムや血糖調整でグルタミン酸を鎮める
ADHDをDAとNEだけで説明するのにも、限界があります。
近ごろは、グルタミン酸とGABA、つまり神経のアクセル役とブレーキ役のバランスも、ADHDに関わると考えられています。
ところが、いま承認されているADHD薬は主にカテコールアミン系をねらうもので、グルタミン酸の伝達を直接いじることを目的にした標準的なADHD治療薬は、まだありません。研究レベルではNMDA受容体などをねらう薬も検討されていますが、標準治療にはなっていないのです。
だからこそ、薬とは別の切り口が出てきます。神経の興奮しやすさに関わる要素、つまり睡眠、血糖の変動、マグネシウムの状態、食事、運動、ストレス。ここを整える意味があるのです。
とくに睡眠不足と大きな血糖の乱高下は、交感神経と認知機能にじわじわ効きます。これを正すこと自体が、ADHDの症状を軽くすることがあります。
🧭 ADHD治療を個別化するということ
いまの標準的なADHD治療は、症状を評価して、薬を選び、効き方を見て、用量を調節する、という流れです。これは臨床的に理にかなっていて、効果の裏づけも積み上がっています。
そのうえで、その外側にもう一段、見られる余地があります。
- DAとNEの個人差
- カテコールアミンをつくり回す力
- DBHなどの酵素の働き
- 遺伝的な背景
- 栄養状態
- 腸内環境
- グルタミン酸とGABAのバランス
- 睡眠、血糖、ストレス
ここまで含めて考えると、神経伝達のより細かい調整について考えを巡らせることができます。
ここに栄養療法をADHDの治療に組み込む意味があるのです。