銅過剰とメンタルヘルス
メンタルヘルスの問題と深く関わっているにも関わらず、一般的にはあまり注目されていない栄養素の問題。それが「銅過剰」です。
銅は体に必要な必須ミネラルですが、過剰になると様々な精神症状を引き起こすことがわかっています。
驚くべきデータ:銅過剰の発生率
以下のデータは、各疾患における銅過剰の発生率を示したものです:
- 産後うつ:95%
- ADHD:68%
- 不安障害:60%
- 行動障害:55%
- 統合失調症:50%
- うつ病:32%
- 一般人口:20%
(参考文献:Crayton JW, Walsh WJ. PubMed 17317521、Pfeiffer CC (1976). Mental and Elemental Nutrients)
このデータから分かるように、一般人口でも20%の方に銅過剰が見られますが、メンタルヘルスの問題を抱える方ではその割合が大幅に高くなっています。特に産後うつでは95%という極めて高い数値となっています。
なぜ銅過剰が問題なのか
銅は本来、エネルギー産生や神経伝達物質の合成に必要な重要なミネラルです。しかし、過剰になると以下のような問題が生じます:
1. 神経伝達物質への影響
銅過剰は、ドーパミンやノルアドレナリンといった神経伝達物質のバランスを崩します。これが、不安、うつ、集中力低下などの症状につながります。
2. 亜鉛の競合
銅と亜鉛は体内で競合関係にあります。銅が過剰になると相対的に亜鉛が不足し、免疫機能の低下や精神症状の悪化を招きます。
3. 酸化ストレス
過剰な銅は活性酸素を発生させ、脳細胞にダメージを与えます。
特に注意が必要なケース
産後の女性
妊娠中は生理的に銅が上昇します。通常は出産後に正常化しますが、うまく排泄できない体質の方は銅過剰が続き、産後うつの原因となることがあります。
ピルの使用
経口避妊薬(ピル)の使用により、銅が蓄積しやすくなることが知られています。
遺伝的要因
銅の代謝に関わる遺伝子の変異により、銅を排泄しにくい体質の方がいます。
食事や環境
銅製の水道管、貝類の過剰摂取、特定のサプリメントなども銅過剰の原因となります。
銅過剰の症状
銅過剰では以下のような症状が現れることがあります:
- 不安感、パニック発作
- 抑うつ気分
- イライラ、怒りっぽさ
- 集中力の低下
- 不眠
- 慢性疲労
- 月経前症候群(PMS)の悪化
- 頭痛
- 関節痛
当院での検査と治療
検査
血清銅、血清セルロプラスミン、亜鉛/銅比などを測定し、銅の状態を総合的に評価します。
治療アプローチ
- 亜鉛の補給:適切な亜鉛サプリメントにより、銅とのバランスを整えます
- 銅の排泄促進:モリブデンやビタミンCなど、銅の排泄を助ける栄養素を使用します
- 食事指導:銅含有量の高い食品を控え、バランスの取れた食事を指導します
- デトックス支援:肝臓の解毒機能をサポートする栄養素を補給します
効果発現までの期間
適切な用量の亜鉛投与により、通常6〜8週間で銅レベルを正常化できます。これは重度の銅過剰や銅・亜鉛の不均衡がある場合でも同様です。4週目までは大きな変化がないのですが、その後6〜8週間かけて徐々に改善していくのが通常のパターンです。
注意点
銅過剰の場合、亜鉛を段階的に導入することが推奨されます。最初の1〜2週間は50%程度の用量から開始し、それを忍容できれば全量に増やします。これは、急速な銅の動員による一時的な症状悪化を防ぐためです。
まとめ
銅過剰は、メンタルヘルスの問題において見逃されやすい要因の一つです。特に産後うつ、ADHD、不安障害などでお悩みの方は、一度検査を受けることをお勧めします。
従来の治療でなかなか改善が見られない場合、その背景に銅過剰などの栄養の問題が隠れていることがあります。栄養療法によって、根本的な原因にアプローチすることで、症状の改善が期待できます。
当院では、血液検査データを詳細に分析し、お一人お一人に合わせた栄養療法をご提案しています。気になる症状がある方は、お気軽にご相談ください。