うつ病の5つの生化学タイプとメチレーション状態を知る方法
分子栄養学の権威であるウィリアム・ウォルシュ博士は20年間にわたり、2800人のうつ病患者に対して検査を行い、うつ病患者の脳の生化学状態を5つに分類しました。
治療方針はタイプによって全く異なるため、治療前にタイプ分類が不可欠です。
うつ病の5タイプ

低メチレーションタイプ
典型的な低セロトニンを示し、SSRI薬投与にて気分の改善がみられる事が多い
葉酸欠乏(高メチレーション)タイプ
セロトニン、ドーパミン活性が上昇しており、SSRIに効果が見られない
ピロール異常タイプ
セロトニンと、脳の代表的な抑制性神経伝達物質GABAが顕著に低下している
銅過剰タイプ
ドーパミン低下、ノルエピネフリンの上昇がみられる
重金属蓄積タイプ
抗酸化力が落ちるため脳神経が傷つき、脳内神経伝達物質濃度が変化する
低メチレーションタイプ
症状、特徴
メチル化回路が回っていないため、セロトニン、ドーパミン共に少ない傾向にあります。
セロトニンが少ないため、SSRIは効果的で、ドーパミンが少ないためドーパミン渇望の依存症状が出てきます。ヒスタミンがメチル化回路の産生物SAMeで処理されないため、アレルギー症状が出現しやすくなります。
三大症状は以下の通りです。
◆強迫神経症状 (レストランで毎回同じを注文するなど)
◆季節性アレルギー(花粉症、ぜんそくなど)
◆完璧主義 (完璧主義すぎてかえっていろいろな事が出来ない場合もあります)
ドーパミン合成が比較的少なく、強迫的なまでに規則的な生活をする人がいます。また、ドーパミン渇望によるアルコール、たばこ、ギャンブル、砂糖などの依存症が強くあります。
また、SAMeがクレアチンの合成に使われるため、鍛えると筋肉が付きやすく、性欲も強い傾向があります。(男性も女性も性欲はテストステロンに依存します)しかし、痛みには弱いほうです。
ドーパミン、セロトニン共に少なく、SSRIや、抗ヒスタミン薬に好反応である反面、ベンゾジアゼピンや葉酸に対する副作用があります。
意志が強く、頑固で治療方針に従わない人もいます。また、過去の出来事にこだわりがあります。スポーツにおいて競争意識が強く、学業成績もよく、上流家系であることもしばしばです。
診断
診断は問診に加えて血液と尿検査から行います。
検査:血中ヒスタミン 70ng/ml以上、SAMe/SAH比の低下などが参考になります。
治療
SAMeやメチオニンなど直接メチレーションを回す栄養素が効果的です。セロトニン合成を助ける栄養(トリプトファン、5HTP,ビタミンB6など)もよいでしょう。
逆に、葉酸、コリン、DMAE(ジメチルアミノエタノール)などは避けたほうがよいでしょう。
葉酸欠乏タイプ(高メチレーションタイプ)
症状、特徴
メチル化回路における重要な産生物SAMeは70%が筋肉の合成に使われます。筋肉の合成酵素に変異があると、SAMeが体内で余り、メチル化経路が過剰に亢進します。
その結果、セロトニン、ドーパミン共に多く産生されます。セロトニンが多いため、SSRIでは効果が見られません。
鬱に加えて、強い不安、パニックの傾向があります。不眠の方も多いです。ドーパミンが多いため、芸術的、音楽的な才能があります。
ドーパミン過剰のため、やや早口の傾向があります。時には多動になることがあります。SAMeがヒスタミンを処理するので、血中ヒスタミンは低値です。好塩基球数も低値になります。
花粉症は少ないですが、食物、化学物質過敏症は多いです。むずむず足症状が出ることがあります。セロトニンが多いので、SSRIに対してはむしろ副作用がでます。同様にセロトニンを増やすSAMe、メチオニンサプリメントに対しても副作用があります。ベンゾジアゼピンがよく効きます。痛みに強い人が多いです。誇大(大げさ、非常に誇る)癖があります。
診断
診断は問診に加えて血液と尿検査から行います。
検査:血中ヒスタミン 40ng/ml以下、SAMe/SAH比の低下などが見られます。
銅過剰タイプ
症状、特徴
ノルエピネフィリンの上昇、ドーパミンの低下がみられます。このタイプの95%は女性だと言われています。
◆強い不安感、パニック傾向がある
◆産後うつを引き起こす可能性がある
◆活動的である
◆SSRIで不安が増強する
◆安定剤ではうつ症状が治らない
◆ピル・ホルモン補充療法で悪化する
◆敏感肌
などの特徴を持っています。
治療
亜鉛療法、セレン、ビタミンA、B6、C、Eを摂取し、徐々に過剰な銅を排除していくことが重要です
ピロール異常タイプ
ピロールは体内でヘモグロビン(赤血球のタンパク質)が作られる際にできる副産物です。作られるピロールの量がとびぬけて多い人をピロール異常症と呼んでいます。
精神科医のエイブラハム・ホッファーらが、精神疾患患者にピロール異常症が多いことを見出しました。
ピロールはビタミンB6や亜鉛との結合の相性がよいという性質を持っています。体内の不要なピロールは尿中に排泄されるため、ピロールの量が多い人はビタミンB6と亜鉛も尿中へ出ていく量も多いのです。
また、酸化ストレスが高い場合も尿中ピロールレベルを上昇させる事がわかっています。多くの人が精神ストレスや病気、感染、トラウマ、有害金属などによりピロールが上昇してい ます。
ピロール異常は(B6 不足のため)セロトニン、GABA 低下を引き起こします。 また酸化ストレス負荷がグルタミン受容体のグルタミン神経伝達物質活動性を低 下させます。
症状、特徴
ピロール異常の人は生まれつきB6,亜鉛不足があります。これは脳におけるセロトニン、ドーパミン、GABA不足を招き、うつと不安の材料になります。
よく見られる特徴は下記があげられます。
◆気分の変動(双極性障害と診断されていることが多い)
◆ストレスに対応できない
◆怠惰、夢が思い出せない
◆肌が弱く日焼けができない
◆朝のうちは気分がすぐれない。
◆明るい光や騒音に敏感
◆女性の場合、生理不順や無月経
◆心の内面の緊張、読字障害
治療
B6,亜鉛投与によりしばしば軽減、消失し、ピロールレベルも正常化します。これにはかなりの量が必要です。またピロール異常は、酸化ストレスが亢進しており、抗酸化物質が多く必要です。
ピロール異常のうつ病は他のどのタイプよりも治療への反応が早く、通常は数日で治療効果が出始め、4-6週で完全に効果がでます。朝の吐き気のため、多くの患者は昼までサプリメントを摂れません。
重金属蓄積タイプ
鉛、水銀、カドミウム、ヒ素の蓄積が原因となります。腹部の痛み、けいれん・イライラ、筋力低下など肉体的な症状を伴うことがあります。特に幼い子供は、脳血液関門が未発達な上、金属が脳神経や受容体の発達を妨げるため、重金属に感受性が高いです。
治療
解毒効果のあるキレーション治療や、メタロチオネインタンパクを増やす治療などを選択します。
メチレーション状態を把握する方法
メチレーション(メチル化反応)は、「メチル基(CH3)がある物質から別の物質へ移る生化学的反応」のことです。メチル化は、ドーパミン合成、解毒、DNA合成、動脈硬化、がんの予防など様々な事に関わっています。
メチル基が足りなければメチル化反応は起こりにくくなります(低メチル化)し、余っていれば起こりやすくなります(高メチル化)。メチル化状態は人によって大きく異なります。
例えば、健常人の70%はメチル化状態が正常で、低メチル化状態の人は22%しかいません。
しかし、うつ病患者では38%、自閉症患者では98%に低メチル化状態がみられます。

(ウォルシュ・リサーチセンターの分析結果)
栄養療法を行う上で、メチル化状態を把握する事は非常に重要です。うつ病ではメチル化状態により、処方すべき薬や栄養素が全く異なってきます。
そこで、メチル化状態を調べる方法を3つ紹介します。
メチレーション検査

メチレーション(メチル化反応)状態はメチル基が余っているか不足しているかで決まります。
体内で一番多くメチル基を供給してくれるのがSアデノシルメチオニン(SAMe、サムイー)という物質です。SAMeは様々な物質にメチル基を与えることができます。
SAMeからはメチル化反応を止めるSアデノシルホモシステイン(SAH)が作られます。
メチレーション状態はメチル化反応をすすめるSAMeとメチル化反応を止めるSアデノシルホモシステイン(SAH)の比率で決まります。
メチレーション検査はまさにこの比率を測る検査です。
判定法は、
① SAH>50、もしくはSAMe:SAH < 4 なら低メチレーション(UM)
② SAMe:SAHが high、もしくはSAMeが高値 なら 高メチレーション(OM)、 低値ならUM となります。
診断には適するがフォローアップには不適ですので、できれば治療前に行うことがお勧めです。日本にはこの項目を扱っている検査会社はないため、特殊なクリニックで検査を行い、検体を米国まで郵送する必要があります。
全血中ヒスタミン検査
メチレーション検査を扱っているクリニックはまだ少なく、自費診療のため高額です。そこで代わりになる指標としてウォルシュ博士が推奨しているのが、メチレーション状態に伴って変化するヒスタミンを調べる方法です。
ヒスタミンはSAMeによって代謝されるため、高メチル化状態では減少し、低メチル化状態では増加します。低メチル化状態の人に花粉症などアレルギー症状を持つひとが多いのはそのためです。
血中ヒスタミン量を測定する際気を付けなければならない事は、全血中のヒスタミンを測定するという事です。
血液は、血漿(液体成分)と血球(赤血球、白血球、血小板)から成っています。血液中ヒスタミンの98%は好塩基球(白血球の一種)内に存在するため、メチレーション状態を見るためには、好塩基球を含む全血(液)中のヒスタミン量を測定する必要があります。
ウォルシュセンターでは、全血中ヒスタミン量が70ng/mL以上だと低メチル化、40ng/mL以下だと高メチル化の可能性が高いとしています。
好塩基球数が参考になる
残念ながら日本には全血ヒスタミン量を測定してくれる検査会社も存在しません。しかし、まだ方法はあります。
前述のように、血液中ヒスタミンの98%は好塩基球内に存在するため、全血中のヒスタミン濃度は末梢血中の好塩基球の数と相関します。
好塩基球の数は血液検査の白血球数と白血球像から簡単に計算できますし、この2つは日本中どこのクリニックでも扱っている検査項目です。

好塩基球数が30以下なら高メチル化の可能性が高いでしょう。
こんな簡単な検査項目からでもメチレーション状態を推測する事が可能です。
では、実際のデータを見ながらやってみましょう。
白血球数 × 好塩基球(BASO)の割合(%) ÷ 100
ですから、このデータでは
白血球数4800×好塩基球(BASO)の割合(%)2.5÷100=120
となりますので高メチル化の可能性は低いです。
ヒスタミンに影響する因子
理論上、好塩基球数が高ければ低メチル化ということになりますが、ヒスタミン量および好塩基球数は他の様々な影響を受けることがあるので注意が必要です。
ヒスタミン値に影響する薬
ヒスタミン受容体拮抗薬などを使用するとヒスタミン、好塩基球数に影響します。
ジアミンオキジダーゼ(食事中のヒスタミンを分解する酵素)
食事中にもヒスタミンは含まれます。特に多いのは肉と魚です。
細胞外のヒスタミンを分解する酵素がジアミンオキシダーゼで、この酵素の働きが弱い場合、ヒスタミン量が増加します。
ヒスタミンはSAMeとDAO両者の影響を強く受けます。食べ物によってアレルギー症状が出てしまう人はこの影響も考えるべきです。
