副腎疲労という言葉は、21世紀のストレス症候群として、ジェームズ・ウイルソン博士によって命名されました。
副腎疲労患者の増加はとどまることを知らず、過酷なストレスにも耐え、さらにスペアまで用意されている副腎の機能がいとも簡単に疲弊してしまうという現代の環境がいかにすごいかを物語っています。
私がこの副腎疲労に興味を持ったのは、自分が副腎疲労になったのがきっかけです。私は2005年にクリニックを開業し、当時はまだほとんどなかった栄養療法を行っていました。
栄養療法の診療は、患者さんの食事内容や生活習慣を十分にチェックしてから、話し合いを行うために一人の診察に最低30分かかります。昼時にいらっしゃる患者さんの時間が長引いて、昼食をとれないまま、午後の患者さんの予約時間になってしまうことが多くなりました。
多くの方にご紹介を頂き、患者さんが増え診療時間がいっぱいになったため、当初週5日だった診療日を週6日に増やしました。それ以外に、他のクリニックの患者さんの栄養療法処方箋のチェック、データ解析なども行っていました。24時間栄養療法の事を考えていました。
そんな生活をしていたある日、朝ベッドから起きようとしたら、立ちくらみがしました。
仕事が手につきません。
- 患者さんの話を聞こうとしても頭に入ってこない。
- 頭が痛い。
- とにかく食事を取らないとふらついて、何も考えられない。
まさか自分がうつになるとは思いもしませんでした。
「自分が好きで没頭するような事をしてもうつになる」ということを知りました。
その後、不調の原因を学ぶために渡米し、自分の病気が「副腎疲労」だと気付きました。
当時その病名自体を知らなかったのですが、現地で見た内科マニュアルの中に「内科医が見逃してはならない10の疾患」というのがあって、そこに「副腎疲労」が含まれていました。
帰国後、私は週5日の診察に戻し、昼休みをきちんととるようにしました。
毎日の様に高濃度ビタミンC点滴を行いました。
回復した私は、早速資料を基に問診表・資料を作成し、必要なサプリメントを輸入し、副腎疲労外来を始めました。現在までに2000人以上の副腎疲労患者さんのご相談に乗らせて頂いています。
きっかけはビタミンC
消化器内科医だった私が、栄養療法という世界に魅せられたのは、今から15年前のことです。
「疾患の根本原因にアプローチできる」という手法は、これからの医療の方向性を確かに感じました。特に私の興味を引き寄せたのはビタミンCという不思議な物質です。
ビタミンCは特に、不足量を補う最低量と医学的効果を得られる最適量の差が大きいことが特徴です。つまり、ビタミンCは食事からとるのと、サプリメントでとるのと、点滴で入れるのでは全く得られる効果が違うのです。
サプリメントを用いる栄養療法である、分子栄養学の開祖ライナス・ポーリング博士は、ビタミンCに抗がん作用があることを1970年代初頭には見抜いていました。
様々な妨害工作を受け、その治験は失敗に終わるのですが、その意志を引き継いでビタミンC療法を受け継いだのが、ヒュー・リオルダン先生です。
2004年、私はビタミンC点滴療法の創始者でもあるリオルダン先生からビタミンC点滴療法を習い、がんの患者さんに行ったのですが、思った効果が得られませんでした。
しかし、がんは小さくならないものの、ビタミンC点滴を受けた患者さんは多くの方が元気になり、意気揚々と通院してきます。
「がんが小さくなっていないのに、どんどん元気になっていくのはどういうことなのか?」
答えは、副腎にありました。
副腎には、血中濃度の150倍ものビタミンCが存在することがわかっています。
なぜ、そんなにビタミンCが多いかというと副腎はビタミンCの必要量が多いからです。
副腎はビタミンCの力を借りて、ストレスに対抗するホルモン「コルチゾール」の産生を調整しています。
早速、副腎疲労になっていそうな患者さん66名を集めて、ビタミンCを含めた栄養療法を行ってみると、なんと63%の方になんらかの改善傾向を認めました。
多すぎたり、少なすぎたりするコルチゾールレベルが3~6ヶ月で正常範囲に戻ったのです。
サプリを摂っても治らない副腎疲労
副腎はストレスに対応できる臓器ですが、現代の増加するストレスには耐え切れません。
副腎疲労は現代社会においては、誰もが経験することです。
しかし、副腎は回復力が旺盛であり、休息によって本来の力を取り戻します。多くの人が休みをとったり副腎サプリメントを摂ったりして、回復の工夫をしています。
私が副腎疲労の治療を始めてから10年近くたちましたが、その間に副腎疲労という言葉も多くの人が知るところとなりました。
それにつれて、多くの人が自ら調べてサプリメントを試したり、栄養療法クリニックを受診するようになりました。しかし、中には何をしても副腎疲労が治らない人がいらっしゃいます。
数年前から、栄養療法を行っている私のクリニックには、「副腎疲労にはどんなサプリメントを摂ったらいいですか?」という人でなく、「サプリメントを摂っても副腎疲労が治らないのですが、どうしたらいいですか?」という人が多く受診されるようになりました。
当初はサプリメント治療に重点を置いていた私も、それにつれて「サプリで病気を治療する」というスタンスから、 「栄養が足りなくなる原因にアプローチする」という方向に変換をしていくことになったのです。
副腎疲労が治らない7つの理由
副腎がなかなか治らないのには必ず理由があります。
それは、大きく7つにわけられます。
1 副腎疲労を正しく把握していない
副腎疲労とうつ症状と全身の疲労を分けて考えましょう。
立ちくらみ、塩辛いものが食べたくなる、低血糖は副腎の病気で、うつ症状、強迫症状は脳の病気です。
もちろん、お互いに関係しますが、分けて対処すると治療がより容易です。
2 食事が悪い
何を食べるかと同じくらい、何を食べないかが重要です。
栄養を消耗しない食事、炎症を起こす食事(炎症は強いストレスになります)を避けます。
3 サプリメントの選び方が悪い
サプリメントは栄養素を凝縮した効率化の道具です。
効率化ができないサプリメントは摂っても意味がありません。
4 胃と腸の問題
栄養が体に入っていくのを邪魔する原因が胃と腸の問題です。
サプリメントなどは健康な胃腸を持っている事を前提に設計されています。
しかし、日本人はもともと胃腸が強くない上に、副腎疲労の人はストレスで胃腸の動きがさらに弱っています。
副腎疲労が続くと免疫が低下し、日和見感染(普段は大人しくしているが、免疫が低下した時だけ出てくる)を起こすカビなどが出現し、事をさらに複雑にします。
5 重金属、化学物質の問題
火山国である日本は、元々水銀の害を受けやすい土壌です。
さらに、魚や歯科材料、水道管や調理器具などから来る金属が体に負担をかけています。
6 隠れた感染や炎症
持続する感染、隠れた炎症は、副腎に長期間の負担をかけ続けます。
これを見つけられるかどうかは、副腎疲労の治療を大きく左右します。
7 ストレスを考える
ストレス(本来はストレッサーと呼びます)が問題なのではなくて、ストレスに対する反応(ストレス反応と呼びます)が問題なのです。